敢えて自分の武器を壊す
――『死神の浮力』は台本を持ちながら舞台上を動くという、朗読ともストレートプレイとも違う新しい形の舞台ですが、お稽古に参加なさってみて如何ですか?福井
難しいです。自分の中にある想像力を羽ばたかせる作業がどれだけ大切で大変か、今、稽古場で日々実感していますね。今回は台本を手に持って演じるという事で、意識の置き処が普通の芝居とはまた変わってきますし。台本を離して舞台に立つよりもある意味大変なスタイルだと思います。
――福井さんと言えば『キャッツ』のマンカストラップや『アイーダ』のラダメス等、強いリーダーシップで皆を率いていくというイメージが強いのですが、本作の山野辺は全く違うキャラクターですよね。
福井
そうですね……今、自分の中の引き出しを必死に探して山野辺と云う人間とどう向き合うか模索している状態です。
――山野辺は幼い娘を殺害され、その犯人に対して復讐を誓うという設定ですが、ご自身の中に「復讐」というキーワードはありますか?
福井
ふ、復讐……ですか(笑)。流石にそこまで追い詰められたことはないですが、深く落ち込んだり、凄く悔しかったりと云う経験や感情はありますよ。例えば僕はずっと野球をやってきたんですが、その時の指導者に対してだったり……劇団時代も沢山悔しい思いをしながら稽古場に通っていましたね。
――今回は死神の千葉役にふかわりょうさん、妻の美樹役にMEGUMIさん、その他にも小劇場で活躍する俳優さん達との共演と、福井さんがこれまで経験なさったことのないカンパニーへのご参加ですね。
福井
実は今、そこが”壁”だと実感している所なんですよ。と言うのも、これまで僕が主に立たせて頂いたのは客席が1000以上ある劇場で、その一番後ろに座っているお客様まで声をしっかり届ける為の発声や発音、呼吸法というのを10数年間体に叩き込んでやってきた。その方法論を一旦壊して自然な……ある意味映像的な演技をするという事に苦心しています。頭ではしっかり理解しているつもりなんですが、体がなかなか自然な状態になってくれない。ここを乗り越える事が今の自分の一番の課題だと思っています。
例えばふかわさんの様に普段バラエティ番組やラジオ等で活躍なさっている方達の瞬発力や対応力と云うのは素晴らしくって、とても刺激になります。ふかわさんが演じる死神・千葉の思いがけない一言で山野辺はほっとしたり、人間らしい気持を取り戻したりできる。全く色味の違う2人が舞台上で面白いハーモニーを生み出せるよう頑張りたいと思います。
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