一汁三菜でバランスよく腹八分目
初めに、膳には、ごはん、汁、向付けと一汁一菜の形で、箸を添えて運ばれてきます。
一汁三菜は、千利休が考案した懐石から始まったという人もいますが、それ以前の響宴料理や、また影響を受けたされる精進料理をもとにしたということだと思います。
利休の考え方にーをまとめた書物に、「……食事の珍味を楽しみとするのは俗世のことなり。……食事は飢えぬ程……」とあり、贅沢や食べ過ぎをよしとしないことが伺われます。
というのも、「茶禅一味」といわれ、茶道は禅と同じくその修養を通じて精神性を磨く場です。「懐石」の原点は、禅の修行僧が、寒さや空腹をしのぐために、懐に温めた石を入れた「温石」にあるといわれています。また禅寺では修行や儀式としても茶を飲み、時には茶とともに点心(軽食)を出す「茶会」をすることもあり、こうしたささやかな食事から、献立の基本である「一汁三菜」としたのでしょう。この懐石は、あくまでも後の濃茶をおいしくいただくための流れです。
「一汁三菜」とは、ごはんを主食に汁物が重要な組み合わせで、菜(おかず)と香(お漬け物)が基本の要素ですが、菜は主菜、副菜、副々菜で、一汁三菜。香は、ごはんと同様に必ず添えられますが、菜には数えないものでした。
懐石では、まず一人ひとりの膳が運ばれると、そこには、まずは炊きあがったばかりのごはんをまず召上がってくださいという思いをこめて、お味見程度の量のごはんと、汁、そして向付 (膾物や和物)が一汁一菜の形でのせられてきます。
そしてその後、炊きあがったごはんとおみそ汁が運ばれ、続いて煮物椀、焼き物と残りの二菜も、タイミングを見計らって運ばれてきます。
現代においては、献立として一汁三菜が栄養面でもバランスよく摂れることは以前の記事でもご紹介してきました(現代の食卓は「0.87汁2.37菜」?)が、エネルギーとなりやすい糖質が主体のごはんを主食に、汁物は味噌汁が基本で(夏は赤みそ、冬は白みそが基本)、三菜を通じて魚や、野菜、海藻、芋類、きのこなど、幅広い食材が使用されます。決して珍味を取り寄せなくても日常の食材を使えばよいとされています。
食材を無駄なく、季節を盛り込む懐石
お酒もほどほどに楽しみ、亭主と客のコミュニケーションを図ります。(画像提供/和の心)
さらに箸洗いで口を清め、お酒を組み合わせながら、八寸という「海のもの、山のもの」の肴をいただきます。
お酒は、向付、煮物椀、八寸と三回に分けて、お客様におすすめしますが、後に濃茶をいただきますから、けっしてお客さまも飲み過ぎてしまうことはありません。おいしくても、ほどほどにという楽しみ方は、健康面から考えても理にかなっていると思います。
最後に、香のものをいただきますが、この時に湯をいただきます。この湯には、ごはんを炊いた釜のおこげが入っています。飯椀と汁碗に湯を入れ、沢庵などできれいに器を清めつつ、いただきます。
これは精進料理の作法と同じで、亭主の片付けの手間を省くことへの配慮、そしてまた釜の底のおこげまで何も残さず、無駄なくいただくということなのです。