卓上しょうゆびんの登場は1961年
キッコーマンのガラスでできた、しょうゆびん。皆さんのご家庭や定食屋さんなどで見かけるおなじみのカタチですね。これをデザインしたのは GKインダストリアルデザイン研究所所長、現・GKグループ代表の日本を代表するインダストリアルデザイナー、栄久庵憲司(えくあん・けんじ)さんです。「GK」といえば、楽器、オートバイから都市計画まで手がける「アイディー(インダストリアルデザイン)」を学ぶ学生にとっては今でもまぶしく輝く憧れのデザインチームです。この、前世紀半ばにデザインされた見慣れたカタチの卓上しょうゆびんは、さまざまな工夫がほどこされています。それまでの、しょうゆさしで多く見られた「液ダレ」を起こさないように、注ぎ口の模型をいくつも作成して検討されました。その結果、口部分の下を短くしたところ、液ダレもなくキレもよく出るようになり、この形状に決定されたという経緯があります。
これまでも、何度かデザイン変更をする話が持ち上がったたそうですが、栄久庵さんが「変更のしようがない」とおっしゃったそうです。それくらい、完成度の高いデザインといえます。50年以上たった今でも、世界で愛されるポップな形状のボトル。海外でjapanese soy sauce(しょうゆ)=Kikkoman、と認識されているほど普及した背景にこの、びんが貢献していることは間違いないでしょう。
2011年に誕生50周年を記念して発表された限定「ヨーロッパデザイン卓上びん」。どことなく北欧・フィンランドのイッタラ社のデザインを思わせます。いまとなってはレアなアイテムですが、オシャレで欲しくなるデザインですね!(キッコーマン、ニュースリリースより)。
GKデザインによる代表作「成田エクスプレス253系NEX」。1991年。20世紀初頭に活躍したデザイナー、レイモンド・ローウィの『口紅から機関車まで』(書籍として鹿島出版会から刊行されています)を思わせる幅広いデザイン活動です!
ヤクルトのデザインは、あのデザイナーだった!
乳酸菌飲料としておなじみの「ヤクルト」。発売開始は、なんと戦前の1935年です。そのころはガラス瓶で販売されていました。それから33年後の1968年に、独特の形状をした今のプラスティック容器がセンセーショナルに発売されました。この容器のデザインを担当したのは、椅子好きの方には良く知られたインテリア・デザイナーの剣持勇(けんもち・いさむ)さんです! 剣持さんといえば柳宗理さんたちとともに日本のモダンデザインを牽引し、有名な「ラタンチェアー」はMoMAのパーマネントコレクションにもなっています。イサム・ノグチやチャールズ・イームズとも親交のあった世界的なデザイナーでした。直線と曲線で構成されたアトミックで宇宙船のようなフォルムは、子供ごころにも「カッコいいな~!」と思わせる魅力がありました。このヤクルトの殻容器で、小学校図画の時間で何かつくったり、夏休みの自由研究などで工作物をつくった思い出がある人もいるのではないでしょうか? 私はこれを、たくさんあつめてロボットをつくった記憶があります。それくらい身近な容器ですが、プロダクトデザイン界の巨匠・剣持さんの作品だったことは最近知りました。
この、独特の形は「こけし」がモチーフだともいわれています。いわれてみれば、たしかに……。剣持さんのインテリアや椅子にも通じる「ジャパニーズ・モダン」ですね。また、ガラスから樹脂素材への変更というのは、流通上の重量軽減という問題も解決しています。軽量化によって、ヤクルト・レディーとよばれる商品を自転車などで宅配する方々の負担も軽減させました。
また、ヤクルト容器は2010年、立体商標登録を認めなかった特許庁の審決を取り消し、一転して知財高裁は「識別性あり」として立体商標登録を認められました。飲料の容器のカタチだけの商標登録は、コカコーラの瓶に次いで2例目。インテリアでは「Yチェア」が2011年に立体商標登録が認められています。たくさんの「ヤクルトそっくりさん」が市場に出回っていましたが、アンケート調査で98%以上の人が容器を見て「どうみてもヤクルト」と認識したことが決め手になったそう。
今回は、キッコーマンとヤクルトの容器を見てきましたが、定番デザインにはデザイナーの関わっていないアノニマス・デザインも数多くあります。ロングセラーを続けている製品たちは飽きのこないカタチや使い勝手といった完成度の高さをもつものが多いようです!