ミッドセンチュリーデザイン文具の傑作!!

20世紀半ば、いわゆるミッドセンチュリーと呼ばれるこの時期は、テクノロジーの発達とともに、さまざまなプロダクトデザインが発表された時代。素材もそれまでの木材、金属から樹脂素材、いわゆるプラスチックを用いた工業製品が多く作られるようになった時期でもあります。日本でも、さまざまな可塑性の高いプラスチックを使った商品が発売されました。その中でもこの、ぺんてるが製造した「サインペン」は、世界を驚かせる高い性能(書きやすさ)とデザイン(持ちやすさや、普遍的なフォルム)を持ち合わせた、半世紀を越えて現在も世界で使われる逸品です。

サインペン8色

現在は8色展開されています。どうです? かなりポップでしょう。黒と赤が入手しやすいですが私のお気に入りは、水色とピンク。ちょっとしたメモでも使うと気分が上がります!!


サインペンを販売している「ぺんてる株式会社」は1946年に「大日本文具株式会社」という、ちょっとものものしい社名で創業しました。おなじみのこのカタチのペンは8年の研究・開発期間を経て1963年に完成したものです。ぺんてるという社名になったのは1971年。ですが、沿革としては明治44年創業の筆屋である「堀江文海堂」が元となっており、この筆屋さんのノウハウがこのペンにも生かされているのです。

日本伝統の「筆」の技術をモダンデザインに昇華

1940年代中ごろ、先代の堀江利定氏の後を継いだ子息の堀江幸夫氏は日々「新しい筆記具を作りたい」という、情熱を持っていました。当時の携帯できる筆記用具といえば、19世紀に誕生した万年筆(fountain pen)、そして1945年に完成したボールペン(ballpoint pen)が主流でした。特に万年筆は文豪が使用するなど高価なもので、一種のステイタスシンボルでもありました。

そのころ堀江幸夫氏は「うちはもともと筆屋だった。その技術を生かしてボールペンのように携帯性が高く筆のように書けるペンがあれば……」と考えていました。この発想がまず画期的。そして、「筆先」を作るためにアクリル繊維を熱で固めて作ることを思いつきます。「伝統的な日本の日用品を最新素材で作る」というこの逸話に、高度成長期のメイドインジャパンを支えた思想を感じて私はとても好きです。堀江幸夫氏は、経営者でありながらアイデアマンであることはもちろん、技術者でありデザイナーでもありました。世界のHONDAの本田宗一郎氏や、SONYの盛田昭夫氏などと同じスピリットを感じます。
サインペン

オリジナルの黒のキャップを外したところ。最初はボディ色はアイボリーだったのですがアメリカ側の要求で黒になりました。その名残りがペンのエンド部分に使われています。これは当時のオリジナルへの敬意でしょうか?軸には「MADE IN JAPAN」の刻印。誇らしい気持ちになります!!

満を持して完成した「サインペン」は、発売されたものの国内市場での売れ行きは不振。そこで幸夫氏はアメリカに売り込みをかけることに。シカゴ国際見本市に出向き売ろうとしますが「見本市で商品を売ってはいけません!」と門前払いをくらいます。しかし、すごすごと持ち帰るわけに行かず見本市にタダで置いていきました。どういう経路かは不明ですがそのうちの1本が、当時のアメリカ大統領リンドン・ジョンソンの手に渡り、大統領が、その書き味に感動して即大量注文。そして、全米ヒットの後に、日本に逆輸入されたという歴史をもっています。
サインペンふでさき

ペンの先端に穴があいているのがお分かりでしょうか? これは軸内の空気が膨張してインク漏れを防ぐ工夫。ペン先の雰囲気は日本の筆を連想させます。コンビ二では下のようなパッケージで売られています。


超ロングセラーの秘密は絶妙なフォルムと軸径にあり

現在、近くのコンビ二でも黒と赤は1本100円(税抜き)でカンタンに入手できるこのサインペン。定番品として日常化しているこのペンの魅力は書きやすさはもちろんですが、カタチも魅力にあふれています。普通のペン(ボールペン、マーカーなど)の軸の直径は約6~10ミリ位の細いものがほとんど。しかし、ぺんてるのサインペンは最大部で13ミリもあります。この、ポッテリとしたフォルムはカワイイだけでなく、あらゆる世代の人が持ちやすい「ユニバーサルデザイン」となっています。
12色サインペン

発売50周年を記念して作られた超カワイイ「限定ホワイトボディ12色セット」。これだけあれば、もはや文具ではなく「画材」ですね。発色もイイです。イラストレーターのみなさん、スタビロやステッドラーだけでなく伝統あるメイド・イン・ジャパンはいかがでしょう?

堀江幸夫氏は開発当初、条件のひとつに「握りやすいように太めにする」ことを考えました。これば、当時の人気のあったフランスの筆記具ブランドであるパーカーのボールペン「ジョッター」(1954年発売)の直径が7ミリであることと比較してもかなり太いもの。世界中の筆記用具が持ち運びのよさを考えて、より細い軸を開発する中、逆行するようにユーザーフレンドリーで使い勝手の良い、方向性を打ち出していたところに先進性を感じるのです。それが、今日まで世界中で愛される大きな理由となっていると考えられます。
りさらーそんふう

上は、左からドイツの「スタビロペン68」(1968年)、中央が大阪の「寺西化学工業」が1964年に発売したラッションペン、どことなくナニワの香りが…。右は全国の郵便局で入手できるホワイトボディのオリジナルで、かなりオシャレです(インク色は黒)。下はぺんてるの定番2色で落書きしてみたもの

いま、世界的にミッドセンチュリー期のデザインが見直されています。建築、家具、グラフィック、そして音楽・美術などのアートも含め、いわゆるフィフティーズ(1950年代)前後の作品たちは、「レトロ感」といった回顧的なものでなく、「その完成度の高さ」が今でも新鮮さを失わず魅力なのです。工業製品では、新素材(樹脂系材料など)と、大量生産ラインのプログラミングといった、今では普通に行われている作業のほとんどは、この時期に完成したといえるでしょう。

コンビニエンスストアで100円で手に入る日本が世界に誇るハイレベルなデザインの「サインペン」。今では、カラーバリエーションも増えて、その形状の秀逸さが、より際立って見えます。日常は何気なく使っているサインペンですが、黎明期の技術者、デザイナーの心意気に思いをはせると、より愛着がわいてくることでしょう。
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