原初的な読書体験
――保坂和志さんや岡田利規さんの作品に感化されたという話がありましたが、他に小説を読んで「これすごい!」と思われた経験があれば教えてください。
滝口 最近読んでインパクトがあったのは青木淳悟さんの『私のいない高校』でしょうか。なぜこれを書かなければならないのか他の人にはわからないんだけれども、やらなければならないという感じが伝わってくる。貫徹の仕方がすごいなと思いました。小説に限らずですが、整ったものよりも、どこか異形なもの、歪なところがあるものにひかれます。
あとは保坂さんの本で知って読んだ小島信夫さんの小説も衝撃を受けました。『美濃』とか何回も読んでいるのに、最後まで読み通せていないんですよ。途中でちょっと忙しくなって、他の本を読み始めたりすると、最初から読み直さなきゃいけないから。どんな小説か全然説明できないんですけど、読んでいるときは楽しくてすごく興奮したという感触がしっかり残っている。不思議な読書体験でした。読むことのおもしろさは、そういう原初的な何かに近いのかなと。
――原初的な何かとは?
滝口 書かれたことを整理したり、解釈したりしないで体験できるというか。形が定まらないまま自分のなかに入ってくるところが、小島さんの小説にはあると思います。
――滝口さんの小説にもそういうところはある気がします。読むと無性に散歩に行きたくなる。景色の見方が変わりそうです。
滝口 読んだ人に何か具体的な変容が起こるといいなとは思います。
――いま、新作は書いていますか?
滝口 まだどうなるかわかりませんけど、『男はつらいよ』を小説にするというのをやってまして。美保純と温泉に行ったりするんですよね(笑)。
「寅さん」の小説化、どんなふうに形になるのか、まったく別のところにたどりつくのか。楽しみです!