カラフルな土が楽しい写真絵本『土の色って、どんな色?』
まず、頭の中に一枚の画用紙を置いてください。そこにクレヨンで、空と太陽と土、それから木を描きます。さて、ここでご自分の絵を見てみましょう。土の色、茶色に塗っていませんか? あなたの足元の土は、本当に茶色でしょうか。『土の色って、どんな色?』(栗田宏一著・福音館書店)は、日本各地で採取された土が紹介された写真絵本です。
見開き左ページに採取された土の写真、右ページに土を採取中している筆者の栗田宏一さんの写真、2行程度の簡単な文と採取地が記載されているという、シンプルな作りになっています。
採取したときは灰色だった土も、乾かしたらまっ白に。こちらは、北海道当別町の土(P.32-33より)
ページをめくるたびに驚かされるのが、土のカラフルさ。白・グレー・臙脂・ピンク・薄い緑……次から次へと、見たこともないような色の土の写真が現れるので、子どもたちも「これも土なの?」とびっくりしながらどんどん読み進めます。
なかでも子どもたちが喜ぶのは、自分の住む地域の土が出てきたとき。普段気にもしなかった土が、その瞬間から「特別なもの」になるのが、はっきり分かります。読み終えた後、あちこちの土比べに奮闘する子どもも少なくありません。
また、文章は「雨の風の彫刻」「大地の歴史をつめこんだ、タイムカプセル」など、どこか繊細で詩のような雰囲気。けれど不思議と、素朴な力強さもあります。どこまでも広がり、少しずつ積み重なっていく土そのものの重みや時間が、その短いことばに凝縮されているようです。
世界を見る「新しい目」を作るきっかけに―
実際、土にはいろいろな色があります。プランターの土、校庭の土、土手の土、公園の土……ちょっと周りを見るだけでも、土は多くの色を持っています。なのに、「土の色=茶色」となってしまうのはなぜなのでしょうか。こちらは全て福井県清水町の土。同じ町でも、たくさんの色の土がありますね(P.16-17より)
そもそも、人は見ているようで見ていない、とよく言われます。一般常識・先入観……目ではなく頭で見ているのだと。
土は茶色、リンゴは赤、空は青― そのような共通認識はもはや記号のようなもので、便利で効率はいいのですが、それだけでは取りこぼしてしまう美しさや優しさがあることを、この本は教えてくれます。
この足元の土の、ふんわりと空気をはらんだような優しい色。それを見つける目と味わう心を持つことで、今いるこの場所がどれだけ美しいものになるでしょうか。土は茶色だけではないという新たな発見は、土の色だけでなく、身のまわりのもの全てを彩り豊かにしてくれます。
『土の色って、どんな色?』は、子どもにも大人にも、そんな目を持つきっかけを与えてくれる絵本です。まずは、のんびり道を歩きながら、家の周りの土に目を向けてみませんか?
■栗田宏一さんブログ「SOIL LIBRARY」
栗田宏一さんは「世界の多様性」をテーマに、足もとの土のありのままの美しさ・尊さを、アートを通して伝えているアーティスト。写真集のような美しいブログです。