キューとは何?
キューとして、言葉以外に音や匂い、ボディシグナル、タッチ……などいろいろなものが使える。 |
「従来のトレーニング法では、“スワレ”や“フセ”など先にコマンドがあり、それに行動をあてはめていくといった感じでしたが、クリッカーでは行動が強化されてから、その行動に対して犬と人、お互いの“共通語”となるものをつけていけばいいのです。その辺のアプローチの仕方が従来のトレーニング法とは違うところですね」(山田さん)
言葉だけではないキュー
前出のとおり、キューは何も「言葉」だけとは限りません。「ハンドシグナル・ボディシグナル」「音」「匂い」「タッチすること」などをキューとして使用することも充分可能なのです。場合によっては、「視覚」をキューとして使うこともできるのだとか。「例えば、リードを持つと散歩に行けると喜び勇んで玄関に向かうコがいますよね? それは犬が状況から学習した結果ですが、これを逆に教えることもできます。玄関に向かい、おすわりをして待つという行動を強化し、それに対して“リードを持つ”という、人の行動をキューとして入れることができるのです。それを教えることによって、落ち着いてリードを首輪につけられるという利点もあるわけです。 やり方によっては、道路の角を視覚的キューとして使うことで、道路の角ではおすわりするという行動を覚えさせることも可能ですよ」(山田さん)
キューをつけ始めるタイミングを見極めることが大事
ある行動が強化されてきたなと感じたとして、どのタイミングでキューをつけ始めたらいいのか迷うところです。「概ね、1分間に10回、もしくはそれ以上、その行動が出るようになったら、行動が強化されたものと考えていいでしょう。この時がキューをつけ始めるタイミングです」(山田さん)
キューと違う行動を犬が出した時は?
キューを行動より前倒しに出すようになってから、つまり、行動より先にキューを出すようになった段階で、時には犬がキューとはまったく違う行動を出すことがあります。そんな時にはどう対処したらいいのでしょう?「そういう場合は無視をしてください。正しい行動が出た時のみ、クリッカーを鳴らし、行動をマークするようにしてくださいね。トレーニングは犬にとって楽しいものであって欲しいですから、モチベーションを維持するためにも、“ルック!”と言ったのに“フセ”をしてしまうような場合(他の行動をしてしまった場合)には、ただ無視をしましょう。仕切り直して、もう一度“ルック!”で見たら、すかさずクリック!です」(山田さん)
落とし穴にご注意
上記に続いて、例えば、“スワレ”というキューを出しても、犬がスピンやターンなどまったく違った行動を次々に出して応えることがあります。こういったことはクリッカートレーニングにおいてはありがちなのですが、これはキューと行動とがしっかり結びついていないということ。「犬がキューを気づくように、キューを待つように教えていくことが大事です。その行動に対するキューを犬自身が明確に理解することを、科学的行動学の言葉では“スティミラス(Stimulis)コントロール”と言いますが、キューを出しても犬がうまく反応しないようであれば、スティミラスコントロールがうまく入っていないと表現します。このスティミュラスコントロールは、クリッカーで犬と人とがコミュニケーションをとっていく上で大切なこと。キューをつけてからは、そのキュー、イコールその行動が明確に出ることを意識しながら、また、一つ一つの行動がキューと明確につながるように、そのキューが一つの単語(サイン)として犬にきちんと伝わるようにしていきましょう」(山田さん)
これに関連して気をつけたいことがあるそうです。以下のようなことはしてはいけないそう。
「そのキュー=行動になっているかと確認するために、例えば、“ルック”だけを強化した段階で、犬が自信を持ってその行動を行なっている時に、わざと違うキューを出して確認してみるとして、折角“ルック”をしているのにクリッカーを鳴らさずにいると、トレーニングにおけるモチベーションが下がってしまうことがありますので注意が必要です」(山田さん)
キューをつけ始めた初期の段階では、特に気をつけたいところですね。
キューを出して、犬が「座ったらいいの? それともフセ? スピンしたらいいのかな?」と次々違う行動を出してきた時には、犬自身よく理解できずに迷っているという状態と言えるでしょう。キューに対してきちんと反応できた時は、互いのコミュニケーションができているということでもあります。それを感じ取れた瞬間、きっとクリッカートレーニングの奥深さと魅力に気づくことでしょう。
さて、次のページでは、“ルック”を例に、写真を通してキューのつけ方を見ていきます。