乗用車ライクな乗り心地と、“のりのり”加速フィール
それでは、試し乗りといこう。試乗車は人気の白い35d Mスポーツだった。エンジンスタートボタンを押すと、ブルルッとディーゼル車に特有の振動とともにエンジンが目覚めた。大型モデルゆえ、身体をふるわすほどではない。すぐに精緻な回転に転じるが、“それと分かる”程度の音は聞こえてくる。ためしに外で聞くと、なるほど、周りにはっきりディーゼル搭載を認識させるに十分な音量と音質だ。
それでも、走り出しさえしてしまえば、二度と同乗者にディーゼル車だと気づかれることはないはずだ。信号待ちでのアイドリングストップで再スタートを切るときの一瞬のブルッ、で、気づかれてしまうかどうか。X5そのものの静粛性対策が相当に念入りということ。
乗り心地は、この手のクロスオーバーSUVのなかでも秀でて乗用車ライクだ。ノーマルのシャシーセッティング選択でも、ほとんどロールを感じさせず、視線が高いことを除けば、SUVを運転しているという気分にさえならない。
都合1200km以上を一緒に過ごしてみたが、街中はもちろん、高速ドライブの安定感も、立派にグランドツーリングカーレベルであった。2000回転あたりをキープするだけで十分、周囲の流れをリードできてしまえるから、ドライバーはとてもラクチン。高速道路を使っての長距離移動では、いかに右足を使わずにすむか、も、疲労軽減の重要なポイントである。平均燃費もコンスタントに10km/lを超えていた。
そして。何と言っても、ディーゼルターボエンジンから湧き出るトルク“のりのり”の加速フィールが最高に心地いい。右足の裏側が、大笑いするほど、気持ちのいい加速だ。ハーフスロットルで既に十二分な速さをみせ、8ATのおかげでとてもシームレスな速度上昇感が味わえる。アクセルペダルをもっと強く深く踏み込んでみれば、視線の高さと車両の重量感とが相まって、怖いくらいのスリルを味わうことだってできる。やっぱりディーゼルは、楽しい!
X5といえば、大型クロスオーバーSUVで初めて、乗用車のようなハンドリング性能を確立したモデルである。二世代、三世代と、その伝統はもちろん守られていて、そのトルクを生かしたハンドリングは、今回もやはりSUVばなれしていた。足腰の良さもさることながら、BMW流を貫いたパッケージングの優秀さも物語っている。
走り出してしまえば、二度と同乗者にディーゼルであることを気づかることはない、と最初に書いた。実をいうと、ドライバーだけは常にディーゼルターボを駆っていることを意識せざるをえない。なぜなら、常に右足を押し戻すような、えもいえぬ快感に見舞われ続けるからである。