糖尿病/糖尿病の経口薬・インスリン

種類が多過ぎる糖尿病薬……あなたの薬はベストか?

世界の糖尿病患者が3億8200万人を超え、日本の「糖尿病が強く疑われる人」も約950万人(2012年)になりました。今後も世界の人口増、都市化、高齢化で糖尿病患者は増え続けます。この巨大マーケットを狙って製薬会社がしのぎを削っています。

執筆者:河合 勝幸

インスリン

私は料理に応じて2種類のボーラスインスリンを使い分けていますが、いずれA1Cの目標を緩めてシンプルなインスリン療法にする日が来ることを知っています。薬は個人の病態によって変わります。

世界の糖尿病患者が3億8200万人を超え、日本の「糖尿病が強く疑われる人」も約950万人(2012年)になりました。今後も世界の人口増、都市化、高齢化で糖尿病患者は増え続けます。この巨大マーケットを狙って製薬会社がしのぎを削っています。

2013年末には作用の異なる経口薬が9クラス(日本は6クラス)、注射薬にも3クラス(日本は2クラス)あり、それぞれのクラスに各製薬会社のオリジナル薬がずらりと揃っていて、更にジェネリック薬が輪をかけます。選択肢が多いのはいいことですが、実際の治療に使うのはせいぜい経口薬で3クラスが限度で、それ以上はGLP-1受容体作動薬やインスリンとの組み合わせになります。
こんなに糖尿病薬の種類が増えたのに、今の薬が本当に自分に合っているだろうかと不安になりませんか? 目標のA1Cが達成できない人は疑うのも当然です。また、もっと安価で効果があり、長い年月で安全性が確認された薬があるのに、新薬を試してみたい医師に高価な薬を処方されていませんか? その効果は個人差が大きいので是否は問えませんが、次のような問題にもつながります。

年間負担額の差が10万円以上! 高価な第一選択薬もあります

大規模試験による新しい発見や、次々に登場する新薬によって糖尿病治療のガイドラインも数年で書き直される時代です。
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自分だけの治療計画とアクションプラン(1)
2型糖尿病の高血糖管理は患者の意思を尊重

2012年に発表された米国糖尿病協会と欧州糖尿病協会が共同で作成した「新しい2型糖尿病ガイドライン」に、2型糖尿病の高血糖を治療する基本的な枠組み/順序が示されています。概略は後述しますが、ヘルシーな食生活と体重コントロール、体の活動量を増やしても、血糖管理ができなければ薬物療法になります。その第1選択薬が米国も欧州もメトホルミン(ビグアナイド薬)なのです。

これは規定ではなく、エキスパートアドバイスなので、どの程度の医師がこの勧めを守っているかを調べた研究があります。[The American Journal of Medicine, March 2012]

膨大なデータを分析した結果、米国の2型糖尿病患者の3人に1人はメトホルミンから薬物療法を始めていないことが分かりました。18%がスルフホニル尿素(SU)薬から始めていました。これもまた、長い年月で安全性が確認されている安価な薬です。5人のうち1人は新しくて高価なチアゾリジン薬(アクトスなど)とDPP-4阻害薬(ジャヌビアなど)から始めていました。問題は米国ではこれらの高価な薬は6ヵ月で一人あたり平均677ドルもかかりますが、安価なメトホルミンなら116ドルで済むのです。

日本でもDPP-4阻害薬のジャヌビア 100mg/日(最高投与量)は250円/日ですが、メトホルミンのメトグルコ 1500mg/日(通常の最高投与量)の薬価はたった54.4円/日です。これの個人負担は3割(高齢者は1割の人も)ですから実に軽微です。もちろん、メトホルミンは腎臓病や心不全のある人、高齢者には不適ですが、この第1選択薬の高い薬、安い薬の相違による「個人と健保組合」が負担するトータルの差額がアメリカでは年間約10万円にもなることが浮き彫りになりました。これが数百万人のオーダーになりますから社会問題にもなるのです。

日本糖尿病学会は薬物療法の第1選択薬を示していませんが、(独)国立国際医療センター研究所糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け)では、第1選択薬としてビグアナイド薬(メトホルミンなど)とスルホニル尿素薬、第2選択薬としてα-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬、チアゾリジン薬(アクトス)が示されています。

血糖コントロール目標から薬の選択を

日本糖尿病学会は長らく血糖コントロール指標と評価を優(A1C・NGSP% 6.2未満)、良(6.2~6.9未満)、可(不十分 6.9~7.4未満) 可(不良 7.4~8.4未満)、不可(8.4以上)としてきました。コントロール不良なのに「可」としていることを、私は度々揶揄(やゆ)してきましたが、やっと2013年5月に新しい血糖コントロール目標が発表されました。これからは次のA1C(NGSP%)を目標とします。

   血糖コントロール目標
血糖正常化を目指す際の目標  6.0未満
合併症予防のための目標       7.0未満
治療強化が困難な際の目標   8.0未満


  1. A1Cを7%未満/あるいは前後に収めることは、細小血管合併症を減らし、糖尿病と診断されてから直ぐにこれを達成できれば、更に長期にわたって大血管合併症(心血管)も減らせることが科学的に証明されています。ゆえに、リーズナブルな成人のA1C目標は7%未満とされますが、妊娠中の女性はよりタイトな正常値を目標にします。
  2. 医師は選ばれた患者にはもっとタイトな目標(例えばA1C 6.5%未満)を示すことがあります。それは罹病期間が短い人や、まだ長い平均余命が残っている人、明らかな心血管障害がないような人です。もちろん、頻繁な低血糖や他の副作用がなければ、ですが。
  3. A1C 7.5~8%未満という緩い目標は、重い低血糖を起しやすい、平均余命年数が短い、重い糖尿病合併症がある、糖尿病以外にも他疾患がある、糖尿病教室で自己管理を学んでも適正な薬物療法ができず、目標が達成できない人などが対象になります。

以上の血糖コントロールを目標として生活習慣の改善に取り組みますが、欧米では早期から第1選択薬のメトホルミン(ビグアナイド薬)が投与されています。血糖降下薬はたくさんあるので紹介は次回に譲りますが、ぜひ下記のメトホルミンの記事をご覧になっておいてください。欧米ではメトホルミンに追加する形で他の薬を足していくのです。
糖尿病の経口薬・インスリン
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