もし、医師からA1Cを1ポイントパーセント悪くするように勧められたらどうしよう!美味にうつつをぬかしますか? それとも…意外や意外、難問ですよ。

もし、医師からA1Cを1ポイントパーセント悪くするように勧められたらどうしましょう! 美味三昧を解禁しますか? それとも…意外や意外、難問ですよ。

糖尿病は1型、2型を問わず、とてもフラストレーションが募る病気です。医療サイドは患者が指示どおりの生活習慣を守らないことにいらいらし、患者は十把ひとからげの指示にうんざりしてしています。もっと、患者一人ひとりに合わせた個別的な目標設定は出来ないものでしょうか?

ガイドラインが多過ぎる?!

今から35年前、私が「2型糖尿病と言っても差し支えない」と遠回しに診断された頃は、まだ世界共通の糖尿病診断基準がありませんでした。日本でも大学によって、あるいは各教授によって診断や治療法に「流派」があった時代です。やっと国連のWHO(世界保健機関)が糖尿病診断基準をまとめたのは1980年のことです。

そして今、PubMedで"diabetes guidlines"(糖尿病ガイドライン)をサーチすると、なんと! 8,900以上の参考文献がヒットします。

現在は各国の、あるいは国際的な学会や連盟がそれぞれの糖尿病ガイドラインを発表していますが、大規模試験による新しい発見や、次々に登場する新薬によってガイドラインも数年で書き直さなくてはならなくなっています。

自分だけの治療計画とアクションプラン(1)」で紹介した、2012年4月に米国糖尿病協会と欧州糖尿病研究協会が共同で作成した「新しい2型糖尿病ガイドライン」もその一つで、実は2009年にも同じチームから旧ガイドラインが発表されていたのです。新ガイドラインの最も大きな変更は、患者中心のアプローチを強調していることです。

インクレチン関連薬にやっとなじんできたと思ったら、SGLT-2阻害薬が話題になりつつあります。これらの新薬をどのようにアルゴリズムを基本とした治療手順に組み込んでいくのか興味がありますが、多くの医師が新しい治療薬は従来の治療法が効果がなくなってから導入すべきか否か、自分なりのベストな治療を巡って戸惑っているのも事実です。

糖尿病患者の立場から見れば、これほど糖尿病治療薬が多岐にわたり、血糖コントロールの評価も色々な方法を選べるようになったからには、いよいよ患者一人ひとりの治療目標設定が可能になりつつあるように思えるのです。

糖尿病治療の目標は血糖コントロールだけではないのですが、従来はHbA1c(NGSP)を7%未満とすることが一般的な目標でした。上記の「新ガイドライン」では、病歴が短く、平均余命が長く、心疾患の病歴がなく、低血糖やその他の副作用を伴わないで実現できるのなら、HbA1cを6~6.5%と、よりタイトな目標設定をするようになっています。この方針は以前から指摘されていましたが、その判断基準を具体的に示したので、一般の内科医や家庭医に役立つことと思います。

逆に目標HbA1cを7.5~8%、あるいはそれよりやや高くするように勧められた人たちもいます。例えば介護が必要な重い低血糖を起こす人とか、65~70歳より高齢で平均余命が限られている人、進行した糖尿病合併症のある人、いろいろな重い病気を併せもつ人、どうしても血糖コントロールが困難な人などが対象になります。

テーラード治療も賛否両論

糖尿病患者を個々に扱って、各自の治療目標を立てることは良いことずくめで理想的ですが、患者の立場になってみると、それもフラストレーションを高めることもあるのです。

例えば、1型糖尿病患者で長年とてもいい血糖管理を続けていた男性が、近頃なぜか介護が必要な重い低血糖を起こしやすくなりました。医師が低血糖サインのリセットのために血糖コントロールを緩めるようにアドバイスするのですが、彼は完璧な血糖コントロールをしてきたことが誇りだったのです。だから"悪い"血糖コントロールはどうしてもしたくないのです。フラストレーションが高まります。

私のように30代半ばで2型糖尿病を発症した場合は50代で合併症適齢期になりますから、それこそ最初から本気で取り組まなくてはなりませんでした。同じ2型でも、老人病として50代、60代で発症した人は目立った病態の進行もなく、いつも同じような経口薬と簡単な食事療法で苦もなく過しています。私にも合併症なしでここまでやってこれたことに、それなりの自負があります。

もしも、私が新しい担当医から「そろそろ(平均余命が10年を切ってますから)血糖コントロールはほどほどでいいですよ」なんて言われたら、やはり疎外感でガツン! とくるでしょうね。

実際のところ、事情のある人のHbA1cの7.5~8.0%を容認するとしても、それが結果としての数値でなくて、現在の数値を1~1.5%"悪くするように"と勧めるのは至難の業です。薬は減らせますが、もっと食べろ?! と言うのでは治療の態をなしません。多くの患者が抵抗するでしょう。生活習慣をよくするのも、少し緩めるのも、努力と苦痛が伴います。

患者中心のケアというのは、「患者個人の好みや必要性、価値観を尊重しつつ、からだ全体の治療指針に責任を持つ」という定義があります。医療プロバイダーにも新しいノウハウと覚悟が求められる時代のようです。
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