糖尿病/A1C・血糖値管理・血圧計・血糖測定器

糖尿病治療の血糖測定器のセンサーが高価な理由

インスリン治療の糖尿病患者は、毎日~7回も血糖自己測定をすることがあります。健保でカバーされているセンサーは不十分なので、それ以上は自己負担です。この一枚120円はする高額なセンサー代がなんとも懐を痛めるのです。

執筆者:河合 勝幸

センサー

センサーのサイズは人が扱える大きさになっています。本当はもっと小さくできるのです。本文を読んでから、ルーペで構造を確認してください。

長さ25mm 幅6mm位の、このちっぽけなプラスチックの小片が糖尿病ケアの心強い味方とは気づかないかも知れません。しかし、これは単なるプラスチックの切れ端ではありません。最先端の科学と技術を重ね合わせた結晶なのです。

血糖測定用テストセンサーの今昔

血糖測定器が利用できるようになったのは、ここ数十年来のことです。それ以前の糖尿病患者は、尿糖テストの試験紙の色の変化を見て一喜一憂していたものです。

1980年代に米国で血糖測定がクリニックから家庭に移り始めましたが、当初は医療現場では手作業で染料の付いた試験紙に大量の血液を入れて色の変化を計測して血糖値を出していました。後に自動的にブドウ糖濃度を色の変化にし、それに光を当てて数値化する測定器が出来て普及しましたが、ある程度の時間と十分な血液が必要でした。この方法は酵素比色法と言って今日でも利用されているものですが、今では微量の血液を秒単位で表示できるようになっています。

80年代後半から90年代にかけてセンサーに劇的な変化がありました。化学物質の性質を電気的に計測する電気化学測定が進歩して、血糖測定にも応用されるようになったのです。きっかけになったのは1984年に発表された米国と英国の2人の科学者の論文で、1988年にExacTech stripとして市場に出ました。これは画像検索をすると見ることが出来ますが、2つの電極がセンサーの表面にむき出しになっていて、10μL(マイクロリットル)もの大量の血滴を落して30秒で計測しました。電極の構成や材質、酵素、メディエーター(伝達物質)の基本設計は、そのまま今日の血糖測定器に受け継がれています。

血糖値の測定原理

ここでは現在主流となっている電気化学的に血糖(ブドウ糖)を数値化する方法を説明します。ブドウ糖(C6H12O6)は植物が水(H2O)と二酸化炭素(CO2)から光のエネルギーを使って合成した物質ですが、他の物質に2電子を与える還元性をもっています。つまり、その電子がエネルギーそのものなのです。生物の持っている酵素がこれを受け取り、次々に渡しながら段階的にエネルギーを取り出して最後に水に戻ります。

電気化学的な血糖測定は、ブドウ糖(グルコース)から酵素(例えばグルコースオキシダーゼ)が電子を受け取って次の伝達物質(例えばフェリシアン化カリウム)に渡し、更にそれが酸化して電極に移ります。センサーを測定器に差し込むと、センサーの陰極と陽極に+100mVの微弱な電圧がかかります。センサーに血液が入ると電流が流れますが、同時にブドウ糖からの電子も流れますから、それを測定するとブドウ糖から得た電流がμAの単位かつ秒単位で計測できます。得られた値をブドウ糖濃度に換算してディスプレイに表示されるのです。

酵素のグルコースオキシダーゼは、最初のExacTech stripで使用されて今でもある程度使われていますが、空気中の酸素と反応する弱点があるので個別にホイル包装されているようです。また、血液中の酸素─つまり赤血球の濃さ(ヘマトクリット値)─にも影響されます。センサーの添付文書にGOD法と書いてあればこれです。この酸素反応の弱点を解消した酵素のNAD-GDH法やFAD-GDH法が今日では増えています。

また、酵素から受け取った電子を電極に渡すメディエーター(伝達物質)も数種類ありますが、血液中のビタミンCや尿酸、アセトアミノフェン(鎮痛薬で使われている成分)に影響されにくい物が選ばれます。

従来は電流の変化を定量するアンペロメトリーという方法で測定していましたが、現在はクロノクーロメトリー法と言って、流れた電流と時間から電気量を求める電量分析をして、血液中のブドウ糖の量を算出する血糖測定器もあります。アボットジャパンのフリースタイル・フリーダム・ライトに使用するセンサー、FS血糖測定電極ライトがそうで、わずか0.3μLの血液を約4秒で測定します。クーロメトリー法の長所は外部条件、例えば気温の高低などに影響されにくいところです。だからフリースタイル・フリーダム・ライトは低温に強く、適用温度は4℃~40℃です。厳冬の木造家屋の寝室はかなり温度が下がりますから、就寝中の低血糖や早朝の血糖測定に従来の測定器は不都合がありましたが、クーロメトリー法で解消できそうです。

血糖測定器のセンサーはどのように製造されているか?

米・インディアナポリスにあ大手製薬会社Rocheのセンサー製造工場のあらましが紹介されたことがあります。この工場だけでフル稼働して年間42億枚のセンサーを製造(2012年度)しています。Rocheのセンサー(Accu-Chek)の希望小売価格は米国で1枚1.2ドル位ですから、この工場だけでも巨大なビジネスになっています。

製造工程はどのメーカーでも大差ないでしょうが、Rocheでは、まず、1,000mのプラスチックロールから工程がスタートします。このロールにごく、ごく薄い金箔がセンサーの大きさに貼られて、それが電気回路のパターンにレーザーカットされます。別の機械で作用電極に電気化学反応を起こす化学物質が塗られます。酵素は適切な乾燥と湿度が求められるので、その乾燥管理がポイントだそうです。

次いで規定量の血液を貯める空間が圧着され、センサーを支える表面が圧着され、最後に一枚のセンサーにカットされます。毎分、1,500枚のセンサーがカットされるそうですから大変な速さです。1,000mのロールから4~500万枚のセンサーが作られます。

塗布される化学物質は1ロットあたり数十万枚のセンサーに使われますが、ロットによって微妙に電気特性が変わることがあり、かつてはそれをcodeとしてマニュアルで調整したことがありますが、今では多くのセンサーが自動で行うようになっています。

大量生産されるセンサーがなぜ高い?

日本では患者がセンサー価格に応じて測定器を選ぶことはできませんが、私が調べた限り米国では巨大スーパーWalmartのPB血糖測定器ReliOn Primeのセンサーが1枚18セントと一番安く(測定器は16.24ドル)、前記のアボットのフリースタイル・フリーダム・ライトのセンサーが1枚1.46~1.52ドルとトップクラスの価格です。その間に1ドル以下のセンサーを使う血糖測定器が80機種以上も市場にあります。アボットのクーロメトリー法のセンサーは日本でも1枚136円ですから違和感はありません。

ところで、糖尿病ビジネスのエキスパート、David Kliff(Diabeticinvestor.com)によると、どんなに最新式のセンサーでも製造原価は1枚15セント(15円)は超えないそうです。研究開発、厳密な製造管理、高品質維持、臨床研究、工程の改良改善、米国では医療保険会社が実質的な価格交渉を行う、ect メーカーにも言い分はあるでしょうが、1日3~5枚、人によってはそれ以上も使い捨てる物ですからとても高価につきます。
日本でも医療機関が血糖測定器とセンサーは自分で抱え込んで外部薬局に任せませんから、何かありそうですね。

米国人が1日4回血糖測定をすると、センサー代が1年間で1,000~2,000ドル(10~20万円)かかるそうです。日本でも1枚120円として計算すると1日4回で175,200円/年です。これを保険(すなわち税金)と自己負担でカバーしているのですから、糖尿病は個人にも社会にも負担が大きい病気です。せめて正しい血糖測定をして合併症を防ぎ、社会に恩返しをしましょう。
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