はじめに
誰しも多かれ少なかれ仕事に対し悩みや不満を抱くと思います。ときに、転職や退職を考えもするでしょう。今回は、そんな深刻な苦悩のお話です。原因は……
開業以来、依頼に翻弄されるがまま仕事を続け、気がつけば開業から5年を過ぎようとしていました。5年も続ければさすがに仕事にも慣れるので、自分の仕事を見つめる余裕も出てきます。当時、主たる業務として行っていたのは離婚業務。この業務によって私は深い苦悩にさいなまれていきます。行政書士は相手方と交渉できず、合意に口を挟めません。当事者で合意している以上、書面にするしかありません。黙って仕事をするしかないのです。しかし、協議離婚という場は、表に出ませんが、本当に多くの問題を抱えている制度です。
行政書士の職務の限界が、協議離婚制度の不合理性が、憎しみに満ちた離婚が、私を苦しめていきました。
顧みない夫
「釣った魚にエサはやらない。ましてや、別れる妻に財産なんかやる必要なんてない」と考える夫達。それを後押しする夫の家族。夫の名義だからといって、すべてが夫の財産ではありません。夫婦が協力して築いた財産は、夫婦のものです。夫のものであり、妻のものです。法律書にそう書かれていますし、大学の授業でもそう教わります。
フランスでは、夫婦共同名義の口座をつくれるそうです。日本では夫婦共同名義の口座を持つことはできないため、夫婦の財産がたまたま夫名義になっていることが多いのです。ただそれだけです。夫名義だからと言って、夫の財産ではないのです。しかし、夫は、夫婦の財産はすべて自分の財産だと、言わんばかりに振る舞うのです。
妻は、自分の財産であるにもかかわらず、夫に必死にお願いして、やっと、財産分与をしてもらえるのです。多くの場合、ごまかされ、取り分が少なくなった自分の財産を。
日本の離婚の9割が協議離婚です。しかし、問題の多い制度です。
私は離婚協議に同席しません。弁護士法により交渉に関与することが許されないと考えているからです。ですから、合意に至った結論だけを聞きます。しかし、その合意をみるとあまりに不条理なのです。
協議離婚における財産分与契約というのは、おそらく男女の不平等が最もあらわれた契約だと思います。
その合意に触れ、法律書や大学で学んだことは何だったのかと思っても、書類を作成するしかない。それが行政書士の仕事です。