とても素直でストレスフリー
走り出しは、とてもとても軽快だ。ステアリングのクイックさにも驚かれることだろう。けれども、切ったあとのプロセスにしっかりとした密度感=手応えがあるため、ピーキー過ぎて扱いづらいと感じることはない。街中のクルージングを、これまでのどのフェラーリよりもフレンドリーに、まるでクルマが鼻歌まじりでスキップするかのように、ひょうひょうとこなす。クイックなステアリングさばきにも、あっという間に慣れてしまうあたり、さきほど指摘したプロセスの質感に加えて、その動きが正確にドライバーの意志を捉えてくれているからこそ、だろう。
そして、やっぱりクルマが小さい。コクピットに収まって自ら走らせている感覚でいうと、FFや599GTBはもちろんのこと、それ以前の612スカリエッティや575マラネロよりもずっと小さく思える。エンジンの存在もぐっと手前、ハンドル近くに感じられるから、混雑する都内の一般道を右に左にレーンチェンジしていても、腰と腹の据わりがとてもよく、自信をもって扱える。
乗り心地だって、申し分のないものだった。基本的にフェラーリは、フラットかつハードなライドフィールに徹するのが常。“身”の詰りよりもハードな“骨格”の存在をドライバーに伝えがちだ。より軽くなったF12でも、もちろんその傾向は依然として残ってはいるのだけれども、マグネティックダンパーの制御が利いたアシ回りと、素早く適切に変速続けるデュアルクラッチシステム、そしてドライバーの操作とパワートレインの要求にストレスなくリニアに反応する車体骨格のおかげで、総合的には、乗り心地がいい、と感じられる。聞こえてくる音や感じられる振動は、すべて走るために必要なものと思わせるから、流れに沿って走り出したり、急なブレーキングを要求されたり、高速道路の急なランプカーブを上っていったり、と、何を行うにしても、妙な“引っ掛かり”がない。
要するに、とても素直でストレスフリーなのだった。