シンガポール/シンガポールのグルメ・レストラン・屋台

真っ暗闇の中で三ツ星店の味を/シンガポール

世界的にはまだ数は少ないものの、真っ暗闇の中での食事が新しい感覚を呼び覚ましてくれると人気の「ブラインドレストラン」。三ツ星レストランで修行を積んだシェフを招き、味もサプライズ感も満点と、地元でも評価が高いのがこちらの「NOX」です。なかなかない暗闇での食事体験、ぜひお試しを。

仲山 今日子

執筆者:仲山 今日子

シンガポールガイド

暗闇でのまったく新しい食体験「NOX」

解説

お洒落な若者に人気の、ブギスエリアにあります


「暗闇の中で、牛肉とラム肉の違いが分かりますか?」そんな問いを投げかけてくる、面白いレストランがシンガポールの人気スポット、ブギスエリアにあります。レストランの名前は、「NOX」。実は、今欧米などを中心に新しい流行を生み出しているのが、人間の五感の中の「視覚」を完全に遮断した中で食事をする、「ブランインドレストラン」。世界的に見ても数は少ない、そんなブラインドレストランの名店です。

暗闇の中でいただくお料理とはいえ、味は本格派。ロンドンの三ツ星レストラン「ゴードン・ラムゼイ」などでキャリアを重ねた、Desmond Lee(デズモンド・リー)シェフのお料理がいただけます。

解説

ぱっと見は普通のバーのよう

お店の入り口は、いたって入りやすい雰囲気。ガラス張りのドアの中は、正面にカウンター、その横にソファースペースがあり、普通の小洒落たバーやラウンジのようです。こちらが「ウェイティング」で、実際のダイニングエリアは2階にあります。ここでは、カクテルや軽いアミューズをいただきつつ、スタッフの方の説明を受けます。

 


解説

貴重品はロッカーへ

解説

ラウンジエリアでいただく一口アミューズ

具体的には、「ダイニングエリアが真っ暗であること」「携帯電話、時計、カメラなど、バックライトを含めて光の出るもの一切の持込が禁止」などです。持ち物は基本的に、鍵のかかるロッカーに入れ、リストバンド状の鍵を手首につけ、手ぶらでダイニングエリアへ行くことになります。(何かを持ち込んで落としても見つけることは困難ですし、実際、真っ暗闇の中つまづいたりして危険です)。

食事内容は前菜、メイン、デザートの3コース(88シンガポールドル)のみです。ダイニングエリアでは飲み物のメニューを見ることは困難なため、飲み物はウェイティングでオーダー。ワインや様々な種類のカクテルが楽しめます。お手洗いもウェイティングにあるため、あらかじめ済ませておいたほうが良いでしょう。

真っ暗闇のダイニングエリアとは?

準備が整うと、ダイニングエリアに向かいます。スタッフに案内され、ダイニングに通じるドアが開くと、階段があり、サングラス姿のにこやかなダイニングエリア担当の男性が待っています。

ウェイティング側のスタッフの「楽しんで来てくださいね」の言葉とともに、ドアが閉まると、階段は真っ暗に。完全に真っ暗闇で、どこまで階段があるかすらわかりませんが、「これが最後の階段で、この先右に曲がりますよ」などと、適切にサポートしてくれます。実は、ダイニングエリアのサービスを担当しているのは、全員が視覚障がい者の方。「目が見えない」ということが、ハンデにならないこの場所では、手を取り案内する側と、案内される側が逆転するのです。「ブラインドレストラン」の目的は、新しい食の感覚と出会うだけでなく、目の不自由な方々の気持ちや生活を理解する事でもあるのだとか。

「右の方に手を伸ばしてみてください、ここに椅子があります。そしてその前にテーブルがありますね。これがあなた方の席です」と声をかけられ、手を伸ばすと、確かに、木製のテーブルと椅子があります。完全な暗闇のため、着席してどんなに時間がたっても、目の前のものすら見えません。

暗闇でいただく三ツ星レストランの味

解説

こちらが提供されるメニュー(実際は見えません)

真っ暗闇なので、もちろんカトラリーがどこにあるのかも分かりません。手探りで探します。また、ソフトドリンクや水も、缶やボトルに入ったまま、テーブルに置いてあります。手の感覚だけを頼りに、そっと水やドリンクを注ぐのは、なかなか難しく、緊張するものでした。

どうやって料理を食べるのだろう、と思いあぐねていると、前菜のプレートがやってきました。大きなプレートの上に、時計の12時、3時、6時、9時の方向に小さな器が載っているという説明を受けます。まずは、6時の位置の器のものから食べるようにアドバイスされます。

教わったとおりに、6時の方角の器を手に取り、スプーンで頂きます。カトラリーは、スプーンとフォークで、全て一口大に切られているため、ナイフはありませんでした。視覚が遮断されているだけに、香りが特に際立って感じられます。また、一口食べるまでどんなものが入っているのか分からないのは、好奇心がくすぐられ、食に対するワクワク感が広がります。トリュフなど香りの良い食材を使い、嗅覚を刺激する料理に仕上がっていました。ちなみに、食べるまで何が入っているか分かりませんが、アレルギーのある方は事前に伝えておくと対応してもらえます。また、何か聞きたいことがあったり困った時には、サービスの担当者の名前を呼べば、すぐ来てもらえます。

解説

多国籍な食材が使われたメインディッシュ4皿

前菜が終わる頃になると、嗅覚がとても鋭くなっていることに気づきます。メインの皿が運ばれて来る事がまず香りで分かります。クリスピーな食感のものや滑らかな舌触りのもの、エスニックな食材が入ったものまで。見た目が分からない分、味付けにも工夫がこらされて、飽きないようになっていました。いったい何が使われているのか、同席者とのおしゃべりも弾みます。

 

解説

デザートにも様々な工夫がこらされている

そして、最後はデザート。酸味の強いパッションフルーツを使ったものからスタートして、濃厚なダークチョコレートの味で締めくくる、計算された流れのものでした。

こうして、前菜、メイン、デザートと12皿を味わい、食べ終わった旨を伝えると、再度ダイニング担当の方に手を引かれて階下へ。サービスの方も常に声をかけて気を配っていてくれたものの、下の扉が開いて、明るい光が見えた時は、ほっとしました。

 

食べたものの「種明かし」

解説

質問用紙に解答を記入

ウェイティングのラウンジに戻ると、一枚の紙が渡されます。食べたものを覚えていますか?という質問シートです。

書き終わると、ウェイティングのスタッフの方がiPadを持ってやって来て、食べたものの写真を見せてくれ「答え合わせ」。あちこちで、「え?そうだったの?」や、「全然分からなかった」という驚きの声が上がっていました。

ちなみに、今回のメニューをご紹介します。

【前菜】
6時 - ロケットとトマト、パルマハムのサラダトリュフドレッシング
9時 - フォワグラとアーティーチョーク、レーズンと松の実
12時 - 牡蠣のフライ、ピーナッツバターとタイ風チリソース添え
3時 - 牛タンとクルトン、ケッパーと卵、ピクルスのソース

【メイン】
6時 - エスカルゴのペンネ、ジェノベーゼソース
9時 - 真空調理したサーモンのワイルドマッシュルームのラグー、トリュフ添え
12時 - 和牛とホワイトアスパラ、枝豆のベアルネーズソース(澄ましバターと卵黄、ハーブのソース)
3時 - クリスピーナ豚バラ肉とキムチ

【デザート】
6時 - パッションフルーツと柚子のソルべ
9時 - ブランデーチェリー入りのティラミス
12時 - 赤ワイン漬けのイチゴとバニラアイスクリーム
3時 - ダークチョコレートのガナッシュ、ピーナッツバター、キャラメリゼしたバナナ

ちなみに、メニューは4~6週間毎に変わり、常に驚きを演出するようにしているとか。このメニューも、既に変更されて新しいものに変わっています。

普通の食事とは全く違う、サプライズ感あふれる、そしてちょっと考えさせられるレストラン体験。ぜひ気心の知れた方と訪れてみてください。

<DATA>
■NOX-Dine in the Dark
住所:269, Beach Road Singapore 199546
電話: +65 6298 0708
営業時間:18:00~22:00LO(団体の場合ランチ応相談) 無休 
アクセス:MRTブギス駅から徒歩7分ほど

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※海外を訪れる際には最新情報の入手に努め、「外務省 海外安全ホームページ」を確認するなど、安全確保に十分注意を払ってください。

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