糖尿病/糖尿病の原因・基礎知識

ストレスは糖尿病の原因になるのだろうか?

ストレスは血糖コントロールを乱す要因の一つです。では、ストレスそのものが糖尿病の原因になるのでしょうか? 従来は「ストレスが原因で糖尿病になることはない」というのが定説でした。ところが、このところ慢性的ストレスが糖尿病の引き金を引くようだという研究が少しずつ発表されています。

執筆者:河合 勝幸

サルダーナ

ストレス解消には手軽にできるエクササイズがお薦め。たまたま居合わせた人達が、公園でサルダーナを踊りだすスナップ(バルセロナ)
(c)Kawai Katsuyuki

ストレスは血糖コントロールを乱す要因の一つです。では、ストレスそのものが糖尿病の原因になるのでしょうか? 従来は「ストレスが原因で糖尿病になることはない」というのが定説でした。ところが、このところ慢性的ストレスが糖尿病の引き金を引くようだという研究が少しずつ発表されています。
しかし、ストレスは血糖値を高めるホルモンを分泌させるので、潜在していた糖尿病が早く表面に現われるだけだという見方も以前からありました。例え、ストレスが糖尿病の一因になるにしても、その仕組みは依然として謎のままです。

ストレスと糖尿病の関係

ストレスは糖尿病患者の治療行動と、体のホルモン作用の2つの面で大きな影響を与えます。ストレス解消の過食、アルコール量の増加に加え、エクササイズも怠けがちになります。ストレスに耐えるために体が分泌するストレス ホルモンのコルチゾルやカテコラミンは直接、血糖値を上昇させる作用があります。つまり、ストレスは心身両面で糖尿病管理を難しくするのです。

苦手な上司・辛い仕事・家族の死……と 糖尿病の関連性

動物は、太古から危険を察知した瞬間に身をかわして逃げたり、戦う姿勢をとる能力を備えています。神経とホルモンが瞬時に反応して危険に対向する体勢をつくります。1930年代にストレス学説を唱えたカナダ、モントリオール大学のセリエ教授によると、これが警戒反応という態勢です。この体を守る優れた反射反応が、ストレスに満ちた現代社会では逆の結果をもたらすこともあります。
人間だって山の中で熊に出合えば驚きますが、逃げるか、戦うか、そのままやり過ごすかを瞬時に決断しなくてはなりません。その時、体温や血圧は上昇し、心拍数がたかまり、筋肉は緊張し、血液量もふえ、エネルギー源のブドウ糖や脂肪が血中に放出され、胃腸は動きを止めて身構えます。こういう急激なストレスは通り過ぎてしまえば元の状態に戻りますが、長期間にわたればなかなか元の状態に戻れなくなってしまいます。
セリエ教授のストレス学説の要点の一つは、こういう外敵や寒冷、飢餓、外傷のようなストレスだけでなく、心理的、感情的なストレスでも身体は同じような反応を起してしまうということでした。失敗をとがめる恐ろしい上司と向き合っていると、身体は熊と向き合っている防御態勢を無意識に取ってしまうのです。

動物実験ではストレスを数値的に評価するとき、ストレスホルモンである副腎皮質ホルモンや副腎髄質ホルモンの濃度を測定します。人には外因性のストレスを加えるわけにはいきませんから、ストレスを測定する一番いい方法は大勢の聴衆を前にして壇上でスピーチをさせるのだそうです。その人のだ液を分析してストレスホルモンのコルチゾルの濃度を測定すればストレスの強さが分かります。コルチゾルは血糖値を高めるホルモンの一つなのです。

日常的な慢性ストレスが健康に与える影響

多くの人にとって一過性の急性ストレスはそれ程有害なものではありません。害があるのは日常的な慢性ストレスです。繰り返してコルチゾルが分泌されて高血糖状態が続けば神経も休まる暇もなく、血糖値も血圧も高止りしてしまいます。絶えまない低レベルのストレス、これが慢性ストレスです。
慢性的な低レベルのストレスは、脳、心臓、肺、筋肉に悪い影響を及ぼし、免疫力の低下、がん、心臓病、胃腸障害そして2型糖尿病に関与します。人も動物実験でもストレスを掛け続けると、甘い物や高脂肪の満足感の高い物を欲するようになります。そうするとコルチゾルの濃度が一時的に下がるそうですが、長い目で見ればこのような逃避は高い代償を払うことになるのは間違いありません。

ストレスで糖尿病になる? ならない? 手軽な対処法とは

ストレスそのものが高血糖を常態化し、糖尿病の診断につながるのはないか? と誰でも考えますが、科学的には解明されていません。

2000年のDiabetes Care誌に、人生の悲劇的な出来事の後には2型糖尿病になりやすくなるという論文が載ったことがあります。過去5年以内に愛する人を亡くした人は、そうでない人に比べて1.6倍も2型糖尿病になったのです。体重の増減はなかったので、ストレスの生物学的な関与が疑われています。

2004年の臨床心理学誌には、子供時代にほったらかしにされると成人してから2倍の糖尿病リスクになるという論文がありました。これで思い出すのは低体重で生れた子は成人すると2型糖尿病になりやすいという説です。遺伝要因だけではなく、体の小さい幼児には無意識に食物を多く与えてしまうので大食の習慣が刷り込まれるという考えです。同じく2004年の別の医学誌にはストレスの多い生活が1型糖尿病の原因になるという論文がありました。他にも仕事のストレスが多い女性では2型糖尿病のリスクが2倍になったという研究もあります。

変ったところでは睡眠障害が2型糖尿病のリスクを増やすという研究もありました。毎夜5~6時間未満の短い睡眠しか取れない人、逆に8~9時間もベッドにいる人たちは、ぐっすり眠れる人に比べて30%も2型糖尿病になりやすいというものです。[Diabetes Care 2010]

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感情的なストレスが体の中で活性酸素による酸化ストレスを増やすというエビデンスがあります。酸化ストレスが膵臓のベータ細胞に傷害を与えて糖尿病発症にむすび付くかも知れません。ストレス解消法はいろいろあるでしょうが、いつでも誰でもできるのがエクササイズです。30分のウォーキングで心も体もリラックスしましょう。
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