住みたい街 首都圏/住みたい街の見つけ方

街選びという新しい考え方(3ページ目)

家を買う、借りる場合には、どこに買うかをまず考えます。街選びから家選びが始まるわけで、多くの人はそれが当然と思っているでしょうが、実は街を自由に選べるようになったのは最近のこと。その意味、変遷を見ていきましょう。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド


地価下落、地方分権、物件の横並び化、
2000年前後から住まいの選び方が変わってきた

表参道周辺

2000年前後には都心の物件が急増、都心回帰と言われた。物件の質も一気に上昇、床、壁の厚さや設備も現在とそれほど遜色のないレベルになった(クリックで拡大)

バブル崩壊後、住まい、街の選び方が大きく変わり始めたのは2000年前後です。まず、今ならどこにで住めるじゃないか、都心にだって住める、そんな意識が分かりやすく、具現化されたのが2001年に創刊された「都心に住む」(リクルート)です。バブル崩壊から10年、住む場所は選べるもの、選ぶものという概念が一般化したというわけです。

 

さらに2000年前後は様々な法改正があった年でもあり、それらが住まい選びに与えた影響は見逃せません。ひとつは地方分権化の流れです。これにより、かつては日本全国どこでもさほど違いのなかった公共サービスに差が出始めます。

赤ん坊イメージ

住宅購入時、それまで内側を向いていた関心が外に向かうきっかけになったのが乳幼児医療費助成制度の格差だった

顕著だったのが乳幼児の医療費助成です。2005年時点では東京23区のうち、中学生までの助成を行っていた自治体は全体の3分の1もなかったのではないでしょうか。しかし、自治体によって差があることが「発見」されると、どの自治体も競って助成を手厚くし、現在は23区ではほぼ横並び。医療費助成に限らず、待機児童数、学童保育の充足度その他、住まい選びにあたって公共サービスをチェックする人も増えました。今後、高齢化、少子化の進展により自治体の財政事情には差が生じてくることは必至、当然、公共サービスの格差も広がっていくものと思われます。

 

2000年に登場した法令、制度では住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)とそれに基づいて運用開始された住宅性能表示制度、それとほぼ同時に行われた建築基準法の大改正も重要です。これによって建物の性能の横並び化が始まったのです。実際には平均的に底上げされたと見るのが正しいのかもしれませんが、さほどに危ない物件はないという状態になったと考えられます。

建物だけでなく、マンションでは管理のあり方も変わりました。2000年代前半にはマンション管理適正化法、マンション建替え円滑化法、改正区分所有法、マンション標準管理規約などが相次いで施行、公表されています。これらによって管理も横並び化が進んだわけで、建物のハード、ソフトが揃って底上げされたといえます。

建物、管理に差がなくなり、住む場所によって公共サービスに差が出るようになって後、今度は2011年に東日本大震災が起こります。ここで新たに、住む場所によって安全に差が生ずる可能性があるという認識が加わります。住まいという箱よりも、住む場所によって生活、安全に差が出るようになってきたというわけです。

ここまで歴史から見てきたように、社会の変化によって住まい、街に求めるものは変わってきています。環境重視、買えるところならどこでもいいから、利便性の高い、安全で充実した公共サービスの受けられる場所へ。さらに今後は高齢化、少子化で自治体差が拡大傾向にあると考えると、そうした変化の影響ができるだけ少ない場所を考える必要もあるでしょう。

予算の制約はあるものの、これまでと違い、せっかく、自分で住む場所を選べる時代になりました。また、様々な立地選びに必要な要件も過去の教訓から出揃い、判断しやすくなってもいます。現在はもちろん、将来の社会、自分たちの姿なども想像し、長く安心して住める場所を選ぶようにしたいものです。



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