肥満・メタボリックシンドローム/肥満・メタボリックシンドロームの基礎知識

心筋梗塞・がん・うつ病…なぜ肥満が病気の原因になるのか

【管理栄養士が解説】メタボリックシンドロームが悪化すると、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが上がります。がんや認知症、うつ病などの病気と関連があるという報告もあります。肥満が病気の原因になるメカニズムについて、わかりやすく解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

メタボリックシンドロームも治療が必要? 肥満と病気の関係

肥満と病気

メタボリックシンドローム自体に痛みなどの症状はありません。しかし放置すると心筋梗塞などを引き起こすことがあります

太るとメタボリックシンドロームになり、高血圧・糖尿病・脂質異常症などにかかりやすくなります。これらは生活習慣の乱れが原因だと言われていますが、痛みなどの不快感がないため、治療をおろそかにしたり、放置したりしてしまうことが多いようです。

病院で栄養相談をしていると、医師には聞きづらいのでしょうか。患者さんから「痛くないのにどうして治療が必要なの?」としばしば問われることもあります。

しかし、治療をせずに放置すると、病気が進行し、重症度が増してくると、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる重篤な状態を引き起こしてしまうことは、よく知られている通りです。

実は、肥満を軸としたメタボリックシンドロームの状態ですと、心筋梗塞・脳梗塞だけでなく、がんや認知症、うつ病などの病気にもかかりやすくなるのです。
 

単純肥満より怖い内臓肥満とは? 太ると病気になるメカニズム

肥満が心筋梗塞や脳梗塞につながるメカニズムを簡単に説明します。

太り始めは、脂肪が風船のように「外側」へ皮膚を伸ばすことで太っていきます。「太ったね」と言われ始める頃の状態だと思って下さい。この頃の太り方は、内臓や血管などは圧迫を受けていません。各臓器はその機能を維持しながら、太っていきます。これは「単純肥満」と言われる状態です。

単純肥満の状態が続き、皮膚がこれ以上伸びないところまで太った後も、人間の体は風船のように割れることはありません。おそろしいことに、人間の体はすでに脂肪を満タンに保管しているにもかかわらず、さらに脂肪を体内のどこかへ溜め込もうとします。保管スペースが外側に確保できないので、体内の現在あるスペースのどこか、すなわち腹腔内に脂肪を溜め込もうとします。これが「内臓肥満」です。

健康診断で異常値が見つかり、病院で再検査をしてくるようにと言われるのはこの頃です。この段階でも痛みなどの不快感がないので、健診結果を家族に隠している方もいらっしゃいます。よく遭遇するのは、サラリーマンの男性が病院へ行くようにと書かれた健診結果を隠してしまい、それを何かの拍子に奥様が見つけ、奥様に連れられて病院へいらっしゃるケース。私たち管理栄養士が担当する栄養相談は医師の診察よりも長く、何度もお話ししている患者様で最低20分以上、初回の患者様は最低30分以上お話しします。そのため、奥様のお怒りの声も旦那様のちょっと悔しそうな表情も手にとるように分かります。

「内臓肥満」になると、腹腔内の内臓や血管などのスペースを圧迫し始めます。脂肪で占領されてしまい、身動きが取れなくなった内臓や血管は、血液や必要な栄養素を上手に体全体に運ぶことができなくなってしまいます。さらに、脂肪細胞に蓄積することができない分の栄養素は血液中に残されてしまうこともあります。これが、高血圧・糖尿病・脂質異常症を引き起こす原因のひとつです。

内臓肥満のために血液の流れが悪くなり、上手く体全体に運ばれることができなくなった栄養素は血管内で身動きが取れなくなってしまいます。血管の分岐点など流れにくい部位など一カ所にたまったり、身動きができなくなった栄養素が血管壁を傷つけてしまい、修復のためにできたかさぶたなどから、動脈硬化がおこり血栓になります。血栓ができた場所が心臓であれば「心筋梗塞」になりますし、脳であれば「脳梗塞」です。

太ると動脈硬化が直接の原因ではないがんや認知症、うつ病などにもかかりやすいのはなぜでしょう? それは体の「腫れ」が関係しています。
 

太ると体が腫れる? がんや認知症、うつ病との関係

最近の研究では、肥満はがんや認知症、うつ病などにも関連があることが分かってきました。

まだ研究段階なのでメカニズムは特定されていませんが、その原因のひとつとして、太っている人の体は「慢性の腫れ」を起こしているからだと考えられています。虫さされなどの時に、患部が赤くなり腫れますが、太っている人の体は常に虫さされの患部のように腫れて炎症している状態が、体全体で起こっていると考えるとよいと思います。

健康診断や病院の血液検査でCRPという検査を受けたことはないでしょうか。実はこのCRPという検査は体内の炎症を示す指標です。一般的に、健康な時は0.3mg/dl以下と非常に低値ですが、痛風の発作時や風邪の時などちょっとした時にもすぐに反応し、検査値が上昇することから、医師が頻繁に検査を行い、チェックしている検査項目です。CRPを含む炎症を示す物質は「炎症性サイトカイン」と言われます。肥満との関連が研究されている炎症性サイトカインはCRPのほかにTNF-α、インターロイキン6などがあります。これらの炎症性サイトカインは太っている人ほど高くなると報告されています。

体内で慢性の腫れが続くと、炎症性サイトカインが放出され続けることになります。この炎症性サイトカインが血液やリンパ液などで全身に運ばれ、発がん性物質を誘発したり、認知症の原因物質を出す手助けをするために、がんや認知症などの病気になってしまうのです。さらに、認知症の原因物質はうつ病の原因物質でもあるとされており、肥満はうつ病の原因になるとも言われています。
 

重要なのは太らないための食事と運動

肥満を放っておくと、命にかかわる重大な病気になってしまうことは過去の研究から明白です。しかし、肥満は生活のクセを変えることで改善することができます。

食事は時間を決めてだらだら食べないようにする、栄養のバランスのとれた食事を食べる、少ない量でも満足がいくように噛む回数を増やすなど、食事だけを見てもたくさんのポイントがあります。すべてのポイントがクリアできなくても、要は「太らない」という目標が達成できればそれでいいのです。

「単純肥満」のうちから食事や運動などを見直して、健康で活き活きとした人生を送りましょう。
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