6カ月の営業停止
国内でも、国際分散投資を実現する環境はすでに整っている
同社はいくつかの法令違反を指摘されましたが、最大の問題は金融商品を無資格で販売していたと見なされたことです。アブラハムPBは、投資助言業の資格を有している会社ですが、助言の延長線上で海外のオフショアファンドを紹介して、購入をあっせんしたとされています。
投資助言業で金融商品をあっせんする行為は、はじめから特定の商品を販売することが想定されていれば、実質的な販売と見なされます。販売には第一種金融商品取引業資格が必要なので、投資助言業で販売を行っていれば、当然に無資格となります。証券取引監視委員会は周到な調査をした上で、今回は断固たる処分を下しました。
資格と運用は別問題
金融庁は厳格な姿勢を示しました。外野席からはアブラハムPBに対する非難、罵声、軽蔑の嵐です。しかし、すでに投資してしまっている人は落ち着いて考えましょう。本当のところは、何が問題で、何は問題ではないのでしょうか?アブラハムPBが理念として掲げたことは、海外投資です。私が提唱している国際分散投資とは少し異なりますが、海外に投資機会を求めて、若いうちから自分のお金を働かせるという発想は、間違ってはいません。30年も投資を続ければお金は驚くほど増えるということも歴史上の真実です。
また、実際の運用は英国の上場会社で正当に行われています。アブラハムPBは「既存顧客の投資資産には一切影響はない」と言明していますが、私も同感。そこが「投資詐欺」とは異なるところです。AIJ年金消失やMRI投資詐欺などの詐欺事件と同じように罵詈雑言を浴びせるのは行き過ぎだと思います。
投資家に被害は?
今回の投資スキームでは、始めてから2年以内の解約に関しては、資金が没収されます。報道だけで動揺して、2年以内の解約に踏み切ろうとする契約者も多いことでしょう。金融庁から処分を受けるような会社に投資を頼むべきでないとも考える人もいるでしょう。そういう投資家にとっては、没収された投資元本は、この事件に起因する損害額です。しかし、会社は悪くても運用自体が真っ当であれば、投資家に被害はないはずと考えることもできます。冷静に考えられる人であれば、最初の2年間の投資だけは予定通り完結してから、次の対応(撤退か継続か)を考えることでしょう。その場合には、2年後もアブラハムPBが存在するのかというリスクがあります。アブラハムPBが廃業していても、運用先が健全である限り、投資の窓口はどこかに受け継がれると思います。
アブラハムPBの詭弁その1:リターンについて
間違っていないこと、間違っていたことと、いろいろありますが、今後のために整理しておきたいことが2つあります。それは、海外投資におけるリターンとコストの問題です。アブラハムPBは、海外の優秀なファンドをあっせんできるので、国内投信に比べて圧倒的なパフォーマンスをあげることができると謳っています。しかし、私が国内の公募投信で行っている国際分散投資において、この5年間のリターンは13%台でした。これで満足できない人がそういるとも思えません。
海外に投資することは有効ですが、その成果を国内の合法的な仕組みから獲得することはできないという印象を与えているのは、アブラハムPBの明らかなミスリードです。アブラハムPBがやろうとしたことは、国内の既存の枠組みの中でも十分に可能であることを、この際にお伝えしておきたいと思います。
アブラハムの詭弁その2:コストについて
次にコストに関してです。アブラハムPBは国内で投資しても収益が劣る理由を、国内で発生する手数料のせいだと解説しています。確かに、そういう面はあります。金融庁の厳格な審査に適合するためのコストや、国内の販売会社に商品を売りさばいてもらうためにコストが上乗せされています(それらを取られた上で13%台のリターンが確保できています)。それらは、日本という国における消費者保護に必要なコストだとも考えられます。
しかし、そうした国内コストがかからないアブラハムPBの投資スキームに、余分なコストは発生しないのでしょうか?実は、投資資金を海外に送金するために送金手数料が発生しています。毎月5万円の投資で1050円かかります。実に2%のコストです。これは国内であればほとんどタダなのです。このコストを隠しておいて、国内商品のコスト高を指摘するのは不公平ですね。この他にも、売値と買値のスプレッドやスイッチングコストに関しても不透明な部分が存在します。
今回の事件を教訓にして、日本人が海外に投資する適正な手法について、多くの人に正しいことを知ってもらいたいと思います。私たちは、すでに国内に国際分散投資を実践する正当なルートを持っているのです。ただ、それを良心的に導くガイド役が少ないことが問題です。