日産自動車は、大手自動車メーカーの中でも特に電気自動車の開発に注力しています。社長兼CEOのカルロス・ゴーン氏は、電気自動車を量販車種(全販売台数の5%以上を占めるもの)にし、2016年には日産と提携しているフランスのルノー社と共にリーフ150万台生産目標を掲げ、2020年には世界の電気自動車市場のリーダーになると発言しました。
日産が電気自動車を選んだ理由は何でしょうか。日産COOの志賀俊之氏は、「我々はEV(電気自動車)に社運を賭けているわけではない。ハイブリッドもクリーンディーゼルもFCV(燃料電池車)も研究開発している」と断りつつ、「『日産GT2012(中期計画)』で『当社もハイブリッド車を出します』と宣言したら、記者の皆さんはどう書きます?『後追い』と書くでしょう。そして、我々がハイブリッド車を発売する頃には、時代はプラグイン・ハイブリッドという風に、実際に後追いになるかもしれない。だから、一足飛びにEV(を選んだ)。」と打ち明けました。
トヨタやホンダがいち早くハイブリッドを開発、販売している事実は否定できません。しかし電気自動車であればスタートは一緒であり、今なら競合他社を大きく引き離せる可能性があるため、電気自動車をいち早く市場投入し、「電気自動車は日産」というイメージを広め定着させたい考えを持っているのではないかと考えます。実際に、電気自動車事業により日産はその企業価値を高めてきました。
(図)日産 リーフ
一充電による走行距離もJS08モードで228kmと現在発売されている電気自動車の中でユーザーに今一番受け入れられやすい車なのではないでしょうか。実際に、日本や北米、欧州市場で販売を開始し、2013年7月までにその累計販売台数は7万5千台に達しています。
リーフは発売当時の予約開始から3週間で3,700台の受注を獲得し、2010年度の目標台数6000台をわずか2か月で達成しました。ゼロエミッション(排出物ゼロ)車を前面に押し出す日産は、資本提携先のルノーとともに2010年4月にダイムラーとの資本・業務提携を発表し、電気自動車など環境重視の車の開発を積極的に進め、2012年にリーフ年50万台の量産体制を築く予定でしたが、計画通りにはいきませんでした。
しかし、実際当初トヨタ自動車がプリウスを4万5千台販売するのに3年間かかったのに対し、日産のリーフはわずか2年間で達成しているという事実があります。最近では、日産リーフは販売不振だと言われていますが、現在のリチウムイオン電池技術レベルと充電インフラの整備も十分に整っていない環境でプリウスの当初の販売台数記録を残すことができたことは十分に評価に値することだと私は考えます。
■三菱自動車
三菱は、電気自動車で世界最大規模のメーカーを目指し、先進的な開発によって新たな地位を築くための計画や戦略を練っています。
三菱は早い段階から電気自動車の開発に着手しています。1999年に日本電池製のリチウムイオン電池を搭載した電気自動車「FTO-EV」の実験を繰り返し多くのデーターを蓄積し、このころから三菱は、電気自動車の開発技術を加速していきました。
(図)三菱 i-MiEV
軽自動車の「i」に小型軽量の永久磁石式同期型モーターと高性能なリチウムイオン電池を搭載しており、航続距離はJS08モードで180kmと、日常の使用に十分耐えられます。価格は、政府から補助金を受けても約284万円と、ガソリン車よりは高めでしたが、2011年に廉価グレード「M」を発売し、補助金を使うことで実質負担額が188万円になりました。
さらに三菱は「環境ビジョン2020」の方針を打ち出しており、今後i-MiEVに加え、シティーユースを中心とした電気自動車のラインナップの充実を図る計画です。
三菱は日産と同様に、電気自動車普及のためのインフラ整備にも積極的です。皆様はあまりご存じないかもしれませんが、日本を含めた世界各国の50以上のパートナーと共同実験などを行い、世界規模での電気自動車の展開・普及を推進しています。
例えば、ノルウェー、香港、オーストラリア、ニュージーランド、チリでは、電気自動車の免税・補助金など購入サポートの制度や高速道路料金の免除、駐車場料金無料などの電気自動車の利用メリットがあり、ユーザーからの評価の声も高いものがあります。
また、モナコやカナダなど各国政府や東京電力など電力会社との協力体制を推進し、実証実験を行っています。今後、軽電気自動車で、どのように世界的地位を築いていけるのかが、日本に於いてライバルであった富士重工業が軽自動車のEVから撤退した今、三菱自動車の電気自動車戦略は注目したいところです。
このように、大手自動車メーカー4社を取ってみても、次世代自動車に対する各社の戦略は大きく異なっていることがわかります。また各々の戦略の背景には、各社が置かれた経営的状況や、サプライヤーとの関係性など、多くの問題が潜んでいることも確かです。
しかし、今後真に求められる次世代自動車というのは、今までのような自動車ありきの社会ではなく、社会ありきの自動車であることが必要だと思っています。各国が掲げる環境目標や、多様化する顧客のニーズに応えられる自動車が真の次世代自動車ではないでしょうか。今後は、そういった社会的視点を持った経営者や技術者から生み出される次世代自動車が、広く普及していくことでしょう。