凱旋門賞に挑戦する2頭の日本馬
10月6日、フランス・ロンシャン競馬場で行われる凱旋門賞(芝2400m)。日本競馬界が目標にしてきたこのタイトルを、いよいよ手にできるかもしれません。今年、その舞台に日本から挑むのは、オルフェーヴル(牡5歳)とキズナ(牡3歳)。前哨戦を快勝し、有力候補として挑む2頭について、改めてその素顔に迫ります。数多くの勲章と前科あり
奇代の荒くれ者「オルフェーヴル」
ディープインパクト以来の三冠馬(※)であり、今までにG1レースを5勝したオルフェーヴル。これほどの実績を収めてきたのに、たとえばディープインパクトのころの熱狂ぶりに比べるとちょっと地味。あの時のように、競馬ファンでなくとも知っているほど有名ではない。オルフェーヴルにはそんな印象があります。(※3歳馬の主要G1である皐月賞、日本ダービー、菊花賞をすべて制すこと.。ディープインパクトは2005年に、オルフェーヴルは2011年に達成)
オルフェーヴルが成績の割にやや地味な理由。それは、同馬が持つ「ヘソ曲がり」、あるいは「気難しさ」が関係しているといわざるを得ません。
類まれな能力を持ったオルフェーヴルには、大スターになるチャンスが2度ありました。1度目は、2012年4月に行われたG1天皇賞・春(芝3200m/京都競馬場)。その前に出走したレースで、オルフェーヴルは気難しさからコーナーを大きく逸れて暴走。しかし、何の心変わりか急にヤル気になって一気にロスを挽回し、終わってみれば僅差の2着。世にも珍しいレースぶりと驚愕のパフォーマンスは、翌日のワイドショーで盛んに報じられました。
そのレースぶりから、次走の天皇賞・春では過去最大級の注目を集めたオルフェーヴル。しかし、スタート後はまるでヘソを曲げたように“らしさ”をまったく見せず11着惨敗。レース前の過熱ぶりは一瞬で消え去ってしまいました。あの時勝てば、きっとその人気は高騰していたはずです。
凱旋門賞の舞台でも暴れるのがオルフェーヴル
2度目のチャンスは、昨年10月の凱旋門賞。フジテレビでも生中継されたこの大一番で、オルフェーヴルは驚愕の走りを披露。直線で楽々と他馬をごぼう抜きし、悠々先頭に立ちます。がしかし、優勝間違いなしと思われたその瞬間、奇代の荒くれ者は突如インコースへ蛇行。内側のラチ(柵)にぶつかるほどの暴れっぷりを見せると、その間にフランスのソレミアに交わされて2着に敗れてしまったのです。あの時、最後までマジメに走れば英雄になれたのに……。ここでもまるでヘソを曲げたようでした。
なお、競走馬がレースで蛇行するのには様々な理由がありますが、この時については「暴れた」のだと私は解釈します。オルフェーヴルの今までを振りかえれば、デビュー戦で騎手を振り落とし、レース中は毎度のごとく暴走の素振りを見せ、忘れた頃にはまた騎手を振り落とし…。その前科があるからこそ、あれは悪事だと考えられるのです。
こんなにも強くて、しかも暴れっぷりの激しい馬は探してもいません。まさに“歴史的荒くれ者”であるオルフェーヴルが快挙を達成し、やっとスター性に見合った称賛を受ける。そんな凱旋門賞のシナリオも悪くないと思うのです。
続いては、もう1頭の日本馬キズナを紹介します。