不思議で温かい、色々な要素が凝縮された素敵な矢沢作品
■作品名下弦の月 (1998~1999)
■作者名
矢沢あい
■巻数
全2巻
■おすすめの理由
「ご近所物語」の次の作品となった「下弦の月」は、
ギャグ満載の明るくてポップな前作とはガラッと異なる、シリアスな雰囲気の作品です。
時空を超えて残された愛、儚いつながり、断ち切れない想い……。そんな重い雰囲気もあるストーリーですが、主人公の小学生の男の子、女の子のやりとりや友情がテンポよく、面白い展開になっています。
■あらすじ
連れ子と一緒に家に来た新しい母親になじめない美月。
知巳というボーイフレンドもいるが、自分の親友と浮気をしたことを知り、彼との縁を絶とうとする。
ある夜、独りで渋谷でギターを弾くアダムという外国人男性に出会い、運命的な恋に落ち、
家出をして古い洋館で二人で暮らし始める。
そんなある日、小学生の蛍は飼い猫を探しに洋館に入り込み、美月に出会う。
蛍が交通事故で昏睡状態の時に、夢で出会った女性にそっくりな美月。
実は美月はこの館に住む前の記憶を失っていて、自分が誰なのかも、なんという名前なのかも、なぜ洋館にいるのかもわからず、覚えているのはただアダムのことだけ。
「外に出てアダムを探そう!」と誘う蛍に付いて館を出ようとする美月だが、
なぜかドアから外に出れず館に引き戻されてしまう……。
輪廻転生や、魂、生きたまま彷徨う思いなどがテーマなのですが、矢沢あいさん独特の作画で主人公が儚く美しく、ただただ「逢いたい」という思いと切なさだけが伝わってきます。
蛍を始め小学生達が、なんとかしなきゃ!と奮闘するさまは可愛く、矢沢作品らしいユーモアも散りばめられていて笑えます。
不思議で、キレイで、ちょっと怖くて切なくて、温かい……
色々な要素が凝縮された素敵な作品です。