どんどん引き込まれていく手塚治虫作品

■作品名
アドルフに告ぐ

■作者名

手塚治虫

■巻数
全5巻

■おすすめの理由

日本人の母とドイツ人外交官の間に生まれたアドルフ・カウフマン。
ナチスのユダヤ人迫害政策により、ドイツから日本に亡命したユダヤ人一家の息子アドルフ・カミル。そして、かのアドルフ・ヒットラー。
同時代に生きた3人のアドルフの物語。そして、彼らと同じ時代に生きた日本人記者の峠草平が重要な役割で登場しつつ、ストーリーテラー的役割を担っています。

ナチスが政権やベルリンオリンピック、第二次世界大戦などの史実は描かれるものの、
ヒットラーの政権下で翻弄されたカウフマンとカミルの友情の行方と、二人の数奇な運命が軸となっている本作。そこにユダヤ人の迫害を行ったヒットラーにユダヤ人の血が入っているという設定(フィクション)が入り込み、言うなれば歴史のカオスの中にもうひとつのカオスがある状態なのですが、最後まで読む人を引き込む綿密なストーリーは手塚作品ならではだと思います。
しかも、ヒトラーにユダヤ人の血が流れているという機密文書をめぐり、濃いキャラクターがわんさか登場するのに話の軸がまったくブレないのがすごい。

でも、友情が試されるような事件が起こると2人の絆が強まるかわりに物理的距離が生まれ、さらに戦争とそれによって変わっていく人格が2人の仲を完全に引き裂くという不運は、やはり言いようのない悲しさがあります。

また、フィクションとノンフィクションを絶妙に組み合わせているのも本作のポイント。
たとえばヒトラーユダヤ人説。この説の可能性は現在では完全に否定されていますが、
それをあえて取り入れることで誰にも止められない歴史の渦のような、能動的な力を持った物語になっていると思います。

一方でそのようなフィクション部分とは対照的に、非常にリアルな設定もみられます。このマンガをはじめて読んだ時は、「ドイツから日本に亡命したユダヤ人なんていたのかな」と漠然と思っていたのですが、当時かなりの人がドイツから日本に渡ったというデータがあります(その後アメリカに亡命した人が多いようですが)。また、現在のドイツの若者にはほぼ見られない名前で年配の方に多い名前をドイツ人のキャラクターにチョイスしていたりと、妙にリアリティを感じる部分が多いのも特徴で、フィクションとノンフィクションのバランスがマンガに躍動感とリアリティを添えています。



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