積水ハウス東北工場にある「災害公営住宅モデル棟」
その日、工場の敷地内にある災害公営住宅モデル棟という施設も公開されました。モデル棟は平屋建て住宅、2階建てメゾネットタイプの賃貸住宅(いずれも鉄骨系)、さらには戸建て木造住宅の3棟で構成されていました。ちなみにこの木造住宅は、積水ハウスの子会社・積和建設が供給する「積和の木の家」というブランドで、一般的な積水ハウスの住宅より比較的安く建てられる建物です。ちなみにが続いて恐縮ですが、「ベルバーン」外壁は東北工場から東日本地域全体に供給されるといいます。そのため、製造ラインを稼働させるため、新たに100人規模の雇用を実施したそうです。住宅の供給量の増減は、国や地域の経済に大きな影響を与えるといいますが、そのことは東北工場の新製造ラインの稼働にも見られることで、地域の雇用拡大も狙いとしたことだそうです。
災害公営住宅モデル棟に話を戻しましょう。そこでは「地産地消」をテーマにした説明も行われました。同社の住宅に使われる断熱材やサッシ、窓ガラスなど様々な住宅建設資材・部品などを、東北工場では東北エリアから調達しているということでした。積水ハウスに限らず大手ハウスメーカーは、全国規模で物資を調達しているように思われがちですが、地域ごとに調達ルートを確保することで、地域経済に貢献しているという話でした。
さて、ではなぜ災害公営住宅モデル棟が必要なのでしょうか。それは前ページで書いたように、災害公営住宅というものは、一般的に鉄筋コンクリート造と木造住宅しか想定されていないものだからです。もう一つ、これも前ページの通り、建築コストが高止まりしている中、ハウスメーカーの建築手法がコストの低減や早期着工と引き渡しに貢献できる可能性があると考えられるからです。
行政関係者も含め、プレハブ住宅の建築技術や手法は世の中にあまり認知されていません。だから、被災自治体の関係者が、積水ハウスの技術で災害公営住宅を建設した場合どうなるのか、わかりやすく説明できる移設として災害公営住宅モデル棟という施設が設けられたのです。
ですので現在、数多くの国や自治体の関係者がモデル棟を見学し、徐々に理解が深まり、被災地での建設実績も増えてきているといいます。しかし、その数は積水ハウスにとって利益が出る水準ではないようで、課題はまだまだ山積しているといえそうです。
地域の工務店などが災害公営住宅に関われない理由とは?
ところで、このような話を書くと、「災害公営住宅は大手ハウスメーカーや建設会社ではなく、地域の業者が担うべきでは?」という疑問が出てくると思います。真っ当な問いかけだと思います。しかし、一概にそれが正しいとは言い切れないのが、被災地の実情。というのは、建設資材や施工を行う人たちの人件費の高騰の煽りを受け、自治体が災害公営住宅の建設をコンペで募ったとしても、利益がでないため入札がないケースが数多く発生しているからです。地元の住宅会社は現在手がけている工事で手一杯で、災害公営住宅の仕事を請け負えないという状況という、何とも困った状態なのです。
特に鉄筋コンクリート造で施工をした場合、コンクリートの価格が非常に高い状況ですので、限られた予算で多数の災害公営住宅を建設するのは、現実的に現状では無理な話。だからこそ、自治体関係者らはこの工場にあるモデル棟を熱心に見学しているといいます。
積水ハウスの関係者によると、モデル棟については「災害公営住宅としてはグレードが高すぎる」などといった指摘もあり、改善の余地はあるようです。ただこのような取り組みが、被災地に存在する住宅再建の解決策につながるかもしれないと、私には思われました。
災害公営住宅の建設は膨大な数が求められ、「積水ハウスだけでは解決できる問題ではない」といいます。同社だけでなく、様々な人たちの技術やアイデアが生かされ、被災地の方々の住宅再建のスピードアップが進むことを期待したいと思いました。