破傷風を核としたホラー映画 『震える舌』
■監督野村芳太郎
■主演
渡瀬恒彦、十朱幸代、若命真裕子
■DVD販売元
SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)
■おすすめの理由
本作は『砂の器』『八つ墓村』等の名作で知られる名匠・野村芳太郎監督による「医療もの(または闘病もの)」の作品です。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、本作は日本ホラー映画史上本当に最も怖い作品としてよく名前があがる作品です。
一般的に医療・闘病ものは病気や死を通じて命や絆の大切さや生きる意味について考えさせるテーマでメロドラマ風に描かれるのが普通です。
本作の特異な点は物語の形式的には医療・闘病ものの体を成しながら、極めて本質的な意味での恐怖を描いていることです。
そして物語の核を成すのが破傷風という病気です。破傷風の症状は凄まじい痛みを伴い全身の筋肉が硬直・痙攣を起こします。
発作が起こると空気が切り裂かれる様な絶叫の後、顎の筋肉が硬直するため舌を噛んでしまい口の周りは血まみれに体は弓反りになり悶え苦しみます。
これは誇張ではなく発症すれば誰でも実際にこの様になるため破傷風は古来から世界中で怖れられてきた病気です。
作品で少女の発作は際限なく描かれ症状は次第にエスカレートしていきます。両親は付き添う以外に何もしてあげられず無間地獄の様な苦しみに次第に精神の変調を来していきます。
この描写のあまりの凄まじさ、生々しさ、リアリティ故、観客は恐怖の本質、愛する者が今にも絶命するかの苦しみに襲われつつ何もできない無力さ、肉体・精神の極限状態で絆が壊れてしまう恐ろしさを否応なしに考えさせられます。
また本作は当時流行っていたオカルト映画を明確に意識した演出となっています。『エクソシスト』の悪魔がとり憑いた少女と本作の少女は重なって見えます。
しかし順序は逆で、古来人々はこの様な病気に苦しむ人、特に小さな子供をみて恐怖を感じたことでしょう。それが語られ物語・映画となっていきました。
即ち本作の描くものは恐怖の源・原風景です。そのため人々の恐怖心に響く力があり、同時に命や絆の大切さを考えさせるが故に名作としての評価が高い作品なのではないかと思います。