哀愁を強く帯びたウディ・アレンのドタバタ喜劇
『カメレオンマン(Zelig)』
■監督ウディ・アレン
■主演
ウディ・アレン、ミア・ファロー
■DVD販売元
20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン
■おすすめの理由
その独特のスタイルで世界中のファンに愛され、特に70、80年代に良質のコメディを次々と送り出したのがウディ・アレンです。
ウディ・アレン作品の特徴
- 監督・主演をアレン自身がこなす
- 基本的に恋愛と絡ませた都会・大人・上質のコメディ
- 主人公は饒舌・ヘタレ・ひ弱・臆病・自虐的
- ニューヨークのユダヤ系アメリカ人であることが強調される
- 精神分析を多分に意識した複雑なメタ構造の物語なのにおバカなドタバタものの体裁
本作の魅力は設定と構成の妙
主人公ゼリグは幼い頃から極度の臆病者。自分を守るため自我を殺し、誰にも目立たない存在になりたいと願い続けた結果、どんな環境でも周囲に同化し変身できるようになりました。
一方目立たなくなる能力を手に入れたはずのゼリグはなぜか目立つ場所に出没する様になります。ある時はベーブルースの次の打席に、ある時はフィッツジェラルドのパーティに、またある時はヒトラーの近衛兵に。
これらのシーンには当時の本物のニュース映像が用いられ、ゼリグは全く違和感なくしれっと大胆にそこに溶け込みます。
そのテンポ良く、手数多く、畳み掛けてくるおふざけシーンの連続は絶妙のおかしさで、アレンのすっとぼけた演技も実にいい味を出します。
ここは映像技術的にも見所で、同じ様な手法で有名な後の『フォレストガンプ』がバリバリのCG合成を用いたのと比べ、アナログな本作の洗練度が際立ち興味深いところです。
また彼を治療しようとする精神科医との件はドキュメンタリー的に描かれますが、いわばモキュメンタリー中にドキュメンタリーが描かれ虚実の入れ子構造が真実の在り処を考えさせる手法は見事です。
作品全体を通して、皆と同じでありたい、嫌われたくないと感じる人の性(さが)が持つおかしさと哀しさの両面が描き出されます。
そこに、いつも饒舌なアレンが寡黙なことが加わり、ドタバタ喜劇が哀愁をより強く帯びます。
これはアレン監督の人々を見つめる視線がやさしいことの表れであり、本作が良質のコメディたる所以です。