パッチワーク・キルト/パッチワーク・キルトの歴史

キルトから見える日米の違いは?

1980年前後にアメリカから伝わった手芸であるパッチワークキルト。日本で当時30代だった主婦を中心にブームになりますがその広まり方は本場アメリカとは異なっています。

執筆者:市川 直美

キルト:アメリカと日本の違いは?

Patchwork tsushin #178

ハンガリーでも国中のキルターのズ組合、ギルドがあります


キルトはアメリカから1980年代に伝わった手芸ですが、お国柄や民族性の違いから、日本では本場アメリカとは違う独自の広まり方をしてきました。これぞ日本スタイルと海外のキルターの話題に上るのが師弟制度。習い事の世界において日本では先生と弟子の関係つまり縦の関係がきっちりと成り立っていて終了証書や指導者になるための免状の制度もその上に存在しますが、アメリカ伝来のキルトについても1980年代には早くもその制度が取り入れられ、基本を学ぶための学校や教室が誕生しました。その結果たくさんの指導者が日本中に生まれキルトは津々浦々にまで広まっていきました。

一方アメリカでは師弟制度はもちろん職人などの間では存在しますが、キルトにおいては近所の奥さんたちの寄り合いの会のような形で広まり発展したので、互いに教え合うというような開拓時代からの“シェア”(分け合う)の精神で成り立つ横の関係が自然に出来上がり、それがさらに発展して、村、街、州単位の同好の人々の寄り合いの場となり、建国200年ごろから全米中にキルターズギルドという、まず日本の趣味の世界では考えられないような組合組織が自然に生まれました。アメリカでももちろんキルト指導者が山といますが、生徒は長年同じ先生に就くのではなく、自由に受けたい講座を単発で受講することが一般的なのです。

日本では師弟制度の下、十年以上もの年月、教室に通い、技を極め才覚を発揮する生徒たちが多く育っているキルト教室が数多くあります。コンテストで入賞を果たし世界的評価を得るまでに成長した生徒さんを大勢輩出している教室も多く、それでも長年続いた師弟関係を良好に保っているという状況は日本人ならではの美点と考えますが、そのような制度に馴染みがなく上下の関係を好まない海外のキルターにはそのあたりのメンタリティーへの理解が難しいようです。

日本でもアメリカのキルターたちに習い、仲間的な横の関係を作り互いに高め合いたいと同じ志を持つ人々がグループ(ギルド)を作る例も増えてきており自由な状況になってはいますが、今だ師弟関係は根強いものがあります。

ネット時代のコミュニケーション

ネットが普及した近年、キルトの世界でもあらゆる状況が変わり始めました。アメリカでは実店舗ではなくネット上のショップで生地や道具を購入するキルターがどんどん増える傾向にありましたが、特に若い世代ではそれが顕著。彼女たちの情報源はSNS。Flickrなどの画像投稿サイトやブログで、作品写真を見せ合ったり生地情報などをシェアしたりというのが新しいキルター同士のコミュニケーションの形となっています。これはかつてのキルターズギルドの役割を果たしてキルターはネットでつながり情報交換をしているのです。

3、4年前からネット上で結びつき、全米にどんどんメンバーを増やしてきた「モダンキルターズギルド」。今では国境を越えて世界中のキルターがメンバーになりふくらんでつながっているという状況は10年前には想像すらできなかったこと。まさしく新時代のキルターのつながりの新しい形が出来上がってきつつあるのです。

日本ではネット上での個人レベルでのキルター同士のネットワークは出来つつあり、ネットで買い物をする人々も相当増えている印象を受けます。そこからさらにギルドのような大きな組織が生まれてくると日本のキルト界が面白くなりそうです。
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