感染症/渡航時に注意すべき感染症・ワクチン

新興国への渡航前にはA型肝炎ワクチンを受けましょう

A型肝炎は東南アジアをはじめ、世界のほとんどの地域でリスクのある感染症です。ワクチンが非常に有効ですから、渡航直前でも接種を受けましょう。ワクチンの種類や接種回数についても解説しています。

久住 英二

執筆者:久住 英二

医師 / 血液の病気・旅行医学・予防接種ガイド

A型肝炎の流行地域

A型肝炎の流行地域は、ほぼ世界中です。地図のオレンジ色に着色されている国が、中等度以上の感染リスクのある国です。とくに、南アジア(インド、パキスタン、アフガニスタン、ネパール、バングラデシュ、ブータン)とサハラ以南のアフリカが高リスク地帯です。

HepAmap

A型肝炎の流行地域(WHO, International Travel and Health, Disease Distribution Map より (URL: http://www.who.int/ith/en/index.html))


渡航者のA型肝炎の感染リスク

免疫のない人が中等度以上の感染リスクのある国に渡航した場合、渡航者1000人あたり、1ヶ月に1~5人が感染するとされています。つまり、1年滞在すれば、その12倍の12~60人/1000人(83~17人に1人)となり、重大なリスクと考えられます。

A型肝炎の原因・潜伏期間・症状

A型肝炎ウイルス(HAV)が原因で、肝臓に炎症が起きる病気です。炎症にともなう肝細胞傷害は、ウイルスそのものによるものよりは、HAVに感染した肝細胞を細胞傷害性Tリンパ球が攻撃することが主な原因です。

ウイルスが体内に入ってから症状が出るまでの潜伏期間は15日から50日とされ、平均して28日です。

症状は、全くの無症状から、無症状だが肝酵素値(AST や ALT)の異常を呈するもの、そして倦怠感、食欲不振、発熱、筋肉痛、腹痛、嘔吐、下痢などの症状を呈する場合まで、様々です。黄疸が始まると小水の色が濃くなり、色の薄い大便がでます。

症状の強さは年齢により異なり、5歳未満での感染では50~90%が無症状ですが、成人では感染した場合、70~95%の方に症状が出現します。

患者の2/3は2ヶ月以内に、85%は3ヶ月以内に、そして6ヶ月以内にはほぼ全員が治癒します。B型肝炎やC型肝炎のような慢性化はせず、一度感染すると免疫を獲得し、再度感染することはありません。致死率は報告により異なりますが、全体では0.3%ほどで、5~14歳では0.04%、50歳以上では2.7%と報告されています。

もともと肝臓の病気をもっていると、劇症化することがあり、その場合の致死率は60%と報告されています。

合併症として、クリオグロブリン血症、ギラン・バレー症候群、腎不全やネフローゼ症候群、膵炎、再生不良性貧血や血小板減少症などの報告があります。

A型肝炎の感染経路

感染経路は糞口感染が主で、血液感染も起きます。糞口感染は、患者の便に排泄されたウイルスが、水や食べ物を汚染し、それを飲んだり、食べた人の体内に入り、最終的に肝細胞に感染します。

性交渉時に肛門を舐める愛撫方法によっても感染します。胃酸は、経口感染の病原体を不活性化するバリアとして機能しますが、A型肝炎ウイルスは不活性化されません。

血液感染は、主に注射による薬物常用者で報告されています。

A型肝炎の診断法・治療法

血液検査でHAV特異的なIgMを検出することで診断します。治療は、特別な治療法はなく、症状の強いときには休養すべきですが、通常の活動をして構いません。発症後2ヶ月程度は糞便へのウイルス排泄がつづくため、家庭や職場で感染を広めないよう、手洗いの励行などが必要です。

渡航者が知っておくべきA型肝炎の感染予防法

■ゼロ歳児
ワクチンはなく、免疫グロブリンによる予防をおこないます。
滞在期間 免疫グロブリン投与量
3ヶ月未満  0.02mg/kg
3~5ヶ月   0.06mg/kg
5ヶ月以上  0.06mg/kgで、5ヶ月おきに繰り返し注射

■1歳児以上
ワクチンが有効です。

・エイムゲン(化血研)
出発前に2週間隔で2回の接種をおこないます。24週後に3回目の接種をおこなうことで、5年間の有効性が確認されています。

・Havrix(GlaxoSmithKline Biologicals)
国内未承認ワクチンですが、アジュバントを含むため、抗体価の上昇が速やかであり、渡航前に1回の接種で済みます。長期の免疫を獲得するためには、6~12ヶ月後に2回目の接種をおこないます。

・VAQTA(Merck & Co, Inc)
国内未承認ワクチンですが、アジュバントを含むため、抗体価の上昇が速やかであり、渡航前に1回の接種で済みます。長期の免疫を獲得するためには、6~18ヶ月後に2回目の接種をおこないます。

・Hepatyrix(GlaxoSmithKline Biologicals)
国内未承認のA型肝炎と腸チフス(Salmonella Typhi Vi capsular polysaccharide antigen)ワクチンの混合ワクチンで、A型肝炎ワクチンに関しては Havrixと同様の効果があり、長期の免疫を獲得するためには、6~12ヶ月後にHavrixの追加接種をおこないます。

Havrix、 VAQTA では、追加接種を完遂した場合、成人では15年、小児と青少年者では10年間は免疫が持続することが示されています。数学的モデルでは、25年以上の免疫持続が推定されています。

Havrix と VAQTA および、今回紹介していない AVAXIM や EPAXAL などのA型肝炎ワクチンは互換性があり、1回目と2回目で別のワクチン(1回目 Havrix で 2回目 VAQTA など)を用いても、同等の効果が期待できます。これらのワクチンと、エイムゲンとの互換性は証明されていません。

■40歳以上の方、および慢性肝疾患や免疫不全を有する場合
慢性肝疾患の方には、A型肝炎ワクチンと免疫グロブリンを併用します。

滞在期間 免疫グロブリン投与量
3ヶ月未満 0.02mg/kg
3-5ヶ月 0.06mg/kg
5ヶ月以上 0.06mg/kgで、5ヶ月おきに繰り返し注射

■帰国後の予防法
A型肝炎は潜伏期間が長いため、効果が期待できます。帰国後できるだけ早く、渡航前の接種と同じように接種を開始しましょう。

■ワクチン接種後の有害事象
ワクチン接種後は、接種部位の疼痛や腫れ、蕁麻疹などが起こることがありますが、数日で自然軽快します。

■免疫グロブリン投与後の注意事項

生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘ワクチン)の効果に影響しますので、免疫グロブリン接種後は少なくとも3ヶ月(水痘は5ヶ月)以上あけるようにしましょう。また、これらの生ワクチン接種後2週間は、免疫グロブリンの投与は避けてください。
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