アウディの台頭、ベントレー復帰、ディーゼル時代へ
ポルシェが去った99年はトヨタ、メルセデス、BMWが総合優勝をかけて序盤から激しい争いを展開。フリー走行で宙を舞った「メルセデスベンツCLR」が決勝レース中に再び宙を舞うアクシデントを起こしたため、メルセデスは撤退。トヨタ、BMWの戦いはBMWの勝利で幕を閉じた。世界に名だたる自動車メーカーがGTという名のプロトタイプで激しく争った激動の90年代が終わりをつげ、トヨタ、BMW、メルセデスらは自動車メーカーワークスの場となりつつあったF1に注力すべく、ルマンを去った。アウディR8
99年から参戦し、ライバルが去った後も総合優勝をかけて参戦を続けているのがドイツのアウディである。2013年で参戦15年目を迎えたが12勝をあげる大活躍ぶりを見せており、ポルシェの16勝に徐々に迫りはじめている。アウディはライバル無きルマンで勝利を重ねながらも手を変え、品を変え、ライバルの登場を待ち続けている。時に自らのグループ傘下にあるブランドをライバルに仕立ててファンの関心を惹き付けたこともあった。
2001年、アウディR8がベースになったクローズドボディの「ベントレー・スピード8」が参戦。ベントレーブランドを71年ぶりに復活させ、イギリス人ファンをルマンへと呼び寄せた。2003年はベントレーを勝たせるためにアウディのワークス体制「チームヨースト」をベントレーチームに集約。73年ぶりにベントレーにルマン優勝の称号を与えた。
ベントレー・スピード8
2000年代前半はアウディがベントレーを登場させてもライバルとなる自動車メーカーは現れなかった。この時代の直接のライバルと言えば、アンリ・ペスカローロが自ら率いたチーム「ペスカローロ」のルマンプロタイプカー。かつて1970年代、ドイツのポルシェにフランスのマトラが挑んだ構図が蘇るも、ワークスアウディの強さにはプライベートチームは叶わなかった。
ペスカローロC60プジョー。かつてペスカローロ自身が3連勝したマトラを彷彿とさせるカラーリングだ。
2006年、アウディは新機軸となるディーゼルエンジンでのルマン挑戦を開始。ディーゼル車両初のルマン24時間レース優勝を成し遂げる。このアウディのディーゼルエンジンでの挑戦はヨーロッパの自動車メーカーを刺激。2007年にはようやく正真正銘の本命ライバル、プジョーがディーゼルエンジンで参戦。久しぶりに総合優勝をかけた「ドイツvsフランス」のメーカー対決が生まれた。
プジョー908 HDi FAP
ルマン連続挑戦8年のアドバンテージを持つアウディに対し、プジョーは初年度から肉薄。総合優勝をかけたディーゼル対決はルマンの新しい見所となった。そしてついに2009年にプジョーがアウディを1-2フィニッシュで優勝を飾った。
ルマン市街地のカフェの外壁に描かれていたプジョーvsアウディ
メーカー参戦への期待、これからのルマン
アウディvsプジョーのメーカー対決、ディーゼル燃費対決は2011年のルマンで僅差の13.8秒差という激しい闘いに発展した。環境技術への貢献としてディーゼル対決で好イメージを作り出したルマン24時間。2012年からはトヨタもハイブリッドレーシングカーで加わり、ルマンを中心とした「WEC=世界耐久選手権」シリーズが復活した。しかし、ヨーロッパの経済危機を理由にプジョーが2011年を最後に電撃撤退。アウディのライバルはトヨタとなり、アウディもディーゼルハイブリッドで対抗してきた。2012年の初のハイブリッド対決はアウディの「アウディR18 e-tronクワトロ」が優勝。アウディはディーゼル車、ハイブリッド車でそれぞれルマン優勝を成し遂げた。アウディR18 E-tron クワトロ
2011年から始まったWECシリーズは、自動車メーカー対決の舞台としてプロトタイプカーの「LMP1」クラス、プライベートチーム向けのプロトタイプカー「LMP2」クラス、市販車ベースのGTカーでワークス参戦が可能な「LMGTE Pro」クラス、主にアマチュアドライバー向けに門戸を開いた「LMGTE Am」クラスと4つのクラスが設定されており、これまで以上に分かりやすい構図で安定したエントリーを集めている。また、ルマンでは環境技術など新しい自動車技術への挑戦を目的とした「ガレージ56」車両の出走(賞典外)もひとつの魅力になっており、偉大なる耐久レースでありながら、これからの自動車の発展を願う想いが込められ、90年という長い時を刻み、さらなる未来へとつなげている。
最高峰のLMP1クラスには2014年からポルシェが16年ぶりに(総合優勝を狙う)ワークス復帰を予定。耐久王ポルシェのカムバックに向けた大々的なプロモーションが始まっており、アウディ、トヨタとのハイブリッド車による総合優勝をかけた闘いに注目が集まる。
さらにニッサンはLMP2クラスにかつてSUPER GTで使用した4.5リッターV8エンジンを数多く供給。ワークス参戦をしていないにも関わらず、ルノー日産アライアンスはルマンにおいて積極的なプロモーションを展開し、ヨーロッパにおける「ニッサン」ブランドの訴求につとめている。2014年は新技術車両の「ガレージ56」に日産リーフの技術を応用した電力駆動車「ZEOD RC」を出場させるなど、ニッサンのルマンに対する熱意は並々ならぬものを感じる。この一連の関与は近い将来のLMP1クラスへの参戦も視野に入れているとも予想される。
ニッサンZEOD RC
またルマンはアメリカの耐久シリーズ「グランダム」とも歩み寄り、2014年以降は「アメリカンルマンシリーズ」と統一されて「ユナイテッド・スポーツカー・シリーズ」が発足予定。70年代から続く北米市場との交流にも余念が無い。さらにアジア市場に向けても「アジアンルマンシリーズ」を展開し、世界的関心を集めようとトライを行っている。
こうして現地に展示されているルマンのレーシングカーを見ていると、90年に渡る歴史の中での栄枯盛衰も見えてくるし、一見、継続性が無いようにも思える中にもその時代に合わせた発展を遂げているのがよく分かる。長きに渡って挑戦を続けることに尊敬の念を持ち、人々の挑戦と勝利を賞賛する姿勢はこういった展示物からも感じ取る事ができる。まさにルマンは自動車レース文化の聖地だ。
アストンマートンとジャコバン広場
【ガイド記事】
一度は訪れたい! ルマン24時間レースの楽しみ方
ルマン24時間の歴史を彩った名車たち(前編)