心理状態をリアルに怪演した、俳優たちの演技も魅力
■作品名青春の殺人者
■監督
長谷川和彦
■主演
水谷豊、原田美枝子、市原悦子
■DVD販売元
パイオニアLDC
本作は、70年代に制作本数わずか2作品ながら強烈な印象を残し、半ば伝説的な長谷川和彦監督の処女作です。
作品のテーマはずばり“親殺し”という大変重いものです。しかも文学等で描かれる様な人の成長を本質に据えた精神的なものではなく、70年代に実際に起きた事件に基づく中上健次氏の小説を題材とする作品です。
しかもその描写たるやどぎついもので、現在では映画、TV等一般的な映像作品としては倫理的に見かけなくなった種類の表現が異様な生々しさを持って描かれます。
これはアングラ色、実験性の高いATG作品である点を差し引いても、一線を画する様な異質なエネルギーと言えるものです。
そのため万人にお勧めといったタイプの作品ではなく、映画の様々な可能性を見てみたい方、激烈でも心を揺さぶる様な異色作が観てみたい方等にお勧めです。
魅力にまず挙げられるのは水谷さんと市原さんの演技です。
水谷さんは成り行きで両親を殺してしまう青年の心理状態を非常にリアルに好演し、市原さんは主人公が父を殺してしまった後、母親の心理の様々な変化を圧倒的な迫力で怪演しました。
二人のリアリティのある演技によって、脚本の計算が感じられる箇所(心理学用語で記号化できる様な部分)が上手く補完、昇華されていたと思います。
そして最大の魅力は作品の本質、監督が何を描こうとしていたか、です。長谷川監督は所謂全共闘世代の方です。
青春期を学生運動に捧げる中、青春とは、人間の成長とは、について人一倍深く考えられたのではないでしょうか。
精神的に未熟な主人公はいくつかの要因が重なって両親を殺し、恋人を捨て、自殺を図っても本質的には何も変わりません。そこにはただ茫漠とした精神の荒廃が続くのみです。
これ(青春の殺人)は全共闘世代の何も得られなかった、何も変えられなかった失望感でしょうか。それとも青春期の成長に対する幻想でしょうか。それとも……。
果てしなく暗い物語のエンディングは何かが突き抜けた奇妙な明るさに転じます。ここに私は人の根源的な生命力を感じますが、観客に解釈を委ねて、不思議な高揚感を残しつつ映画は幕を下ろします。