今作のテーマは家族愛
『男はつらいよ 寅次郎恋歌』
■監督山田洋次
■主演
渥美清、倍賞千恵子、前田吟、森川信、三崎千恵子
■DVD発売元
松竹ホームビデオ
「私、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」
毎度、お馴染みの言葉から始まる邦画の長編傑作「男は辛いよ」シリーズは、渥美清が演じる「テキ屋の寅さん」が様々な諸事情で故郷の柴又に戻って大騒動を起こしていきます。今作「男はつらいよ 寅次郎恋歌」はその8作目です。おすすめの理由は、寅さんの恋愛と失恋、二人の境遇の違いです。
寅さんの恋愛と失恋
男はつらいよシリーズの主役、フーテンの寅さんはとにかく女性に惚れやすいです。そして、最後は振られて失恋するというのが基本パターンです。また故郷の柴又に帰ってくる理由も毎回異なるのですが、今回、妹さくら(倍賞千恵子)の義理の母の葬式に参列したとき、夫の志村喬が旅先で見た「庭先にりんどうの花がこぼれるばかりに咲き乱れている農家の茶の間」について聞かされたからです。
灯りがついていて、父と母がいて、子供達が夕飯を食べている。本当の人間の生活というのはこういうものではないか。
旅人の寅さんにとって、この望郷の逸話はとても感銘を受けたのでしょう。こうして、柴又に戻ってきました。この話からしても、今作のテーマは家族愛だと気づかされます。
そして、柴又に戻ってきた寅さんは、今作のマドンナである池内淳子が演じる貴子さんと出会って惚れてしまいます。女一人で喫茶店を経営しており、和服姿がとても似合う未亡人ママ。そのママの力になりたい寅さんなのですが、今作はいつもと展開が違います。なんと、まだ失恋したわけでもないのに寅さん自身が身を引いてしまうのです。
二人の境遇の違い
寅さんは旅人なので決まった住所がありません。ママのほうは喫茶店を営業していますから定住しています。寅さんは心のどこかで定住者の生活を望んでおり、ママのほうはしがらみのない旅の生活に憧れています。しかし、寅さんは定住しない、自分の生き方が本当に彼女にとって幸せなのかを考えます。それが自ら引いた理由です。また、序盤で語られる「望郷の逸話」に繋がるわけです。寅さんは家族団らんこそが本当の人間の生活だと感じていたわけです。