静かな狂気を放つ、ロバート・デ・ニーロの怪演が魅力的
■作品名タクシードライバー
■監督
マーティン・スコセッシ
■主演
ロバート・デ・ニーロ
■DVD/Blu-ray
販売元ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
ロバート・デ・ニ―ロの出世作、70年代アメリカン・ニューシネマの終焉を飾るには相応しい内容だと思います。
ベトナム帰還兵のトラヴィスは、その日暮らしのタクシー運転手です。
好きでなったわけじゃなく、ベトナムでの後遺症とも言える重度な不眠症故に、仕方なくありついた職なのです。
ニューヨークの猥褻な街をハンドルを握りながら流すシーンは印象的です。
欲望や嘘偽り、弱者に見向きもしない社会の隅々は、とてもカラフルです。
それが自棄に皮肉だったりします。
この映画のテーマは「憤り」です。
あれほど大きな過失や尊い犠牲を払ったベトナム戦争、その代償を誰も払おうとしない、そんな社会に対してトラヴィスは憤っています。
静かな狂気が劇中を支配しています。
声を荒げるシーンは少ない分、不気味な計画を目論むデ・ニーロの怪演ぶりが魅力的です。
あのモヒカン頭が怒りの象徴、決意の表れではありますが、トラヴィスは結局何一つ満足に実行出来ない「だらしない」男……でもそれがごく一般的な人々の象徴でもあるのかもしれません。
そして思わぬ転機が巡り、街のヒーロー扱いにされる辺りはちょっとユニークな流れです。
狂気と英雄気取り、そこに群がる大衆の陳腐さ、そして永遠に満たされる事のないトラヴィスの疎外感、社会の恥部ばかりを並べ立てていますが、そこに等身大のアメリカの姿が浮き掘られています。