「超主観的」な偏愛たっぷりの図鑑を
対象をいろんなジャンルに広げなくても、自分が好きなものを徹底的に掘り下げるというアプローチもあります。たとえば、こんな本。
『ひろった・あつめた ぼくのドングリ図鑑』(岩崎書店)。
ドングリ拾いが大好きな著者が拾い集めたたくさんのドングリをイラストに描いた素敵な本です。面白いのは、同じアラカシのドングリであっても、これでもかとばかりに大量に並べて描いています。著者の盛口満さんは、子どものころから、生まれ育った千葉県の森でドングリばかり拾いすぎて、母親に怒られたそうです。なぜそんなにドングリをやたらに拾っていたのかを大人になってから考えると、答えはその「多様性」にあったと、あとがきで書かれています。
同じ木のドングリでも、ひとつひとつ違います。
もう一冊、素敵な葉っぱの本を紹介します。『木の葉の画集』(小学館)。
「図鑑」コーナーを探して出あえない本ですが、354種類の葉っぱばかりが美しく描かれています。著者で画家である安池和也さんが、自宅近くの雑木林で拾った葉っぱばかりを描いたそうです。
写真がなかったころに、博物学的な記録方法として発達した「ボタニカルアート」という芸術の分野がありますが、植物を記録するときに、葉っぱは非常に重要な要素になります。植物の見分けは、葉っぱなくしては成り立ちません。植物というと、花や実に目が行きがちですが、葉っぱのギザギザ(鋸歯)、葉脈の別れ方など、多くの情報が詰まっているのです。
「大小さまざまの葉を拾ってきてはその一枚一枚を、大きさもそのままに丹念に描く。細かく見て描くことで、それぞれの葉のわずかなちがいにも気づくことができると思ったからだ。(「あとがき」より)」
そこに網羅性はなく、著者の身近なエリアに偶然生えていた木々の葉にすぎません。木々の選択はあくまでも著者チョイス。ですが、その葉っぱへの愛情から、他にどこにもない見事な「葉っぱ図鑑」になっています。
「深海世界」(パイインターナショナル)という写真集も参考になります。新江ノ島水族館の協力で作られたこの写真集は、透明で変わった形だったり、虹色に光ったりする「深海の珍しい生き物図鑑」です。新江ノ島水族館は、深海底を持つ相模湾に生息する深海生物の長期飼育法の研究が盛んで、珍しい深海生物の展示が充実しています。
水族館では、ふつう、熱帯魚やイワシの群など大水槽やイルカショーに較べ、暗く展示された「深海」の生き物はあまり人気がないかもしれません。でも、黒い海の底の生物ばかりの写真をたくさん集めることによって、独特の世界観をかもしだしています。水族館や博物館に行って、ひとつのコーナーだけを徹底的にフォローするというのも、おもしろい視点です。
難しく考える必要はありません。身近なもの、大好きなもの、子どもたちの「偏愛ぶり」「超主観」をうまく生かして、素敵な「図鑑」づくりをしてみましょう。ヒントは本屋さんにたくさん転がっています。