見えにくかった年齢と回数の限界
子どもがほしい人にとって、不妊治療をやめるのはとても難しいこと。
しかし実際はどうかというと、高齢になると体外受精の強みである多数の卵胞を発育させることができなくなります。だから、男性不妊や卵管のつまり等の問題がない限り、自然妊娠でも体外受精でも妊娠率はあまり変わらなくなってきます。それでも日本ではたくさんの人が、長年に渡って不妊治療にお金を払い続けています。そのお金は、とても補助金では足りません。補助金制度では1回につき15万円しか出ませんが、体外受精は30~50万円、中には80万円程度かかるクリニックもあって自己負担は大変な金額になります。
43歳では1回あたりの出産出来る率は2パーセント
このような負担があっても、そのかわりに子どもが生まれるのならかまわないという考え方もできます。でも、今回、支給対象から外れた43歳の女性の場合、日本産科婦人科学会の全国統計によると、1回の体外受精で出産できる確率は2.0%しかありません(2010)。もし、2%の確率で効くという50万円の薬があったら、買うでしょうか? 次は効くかもしれないと思って、何回も何年間も買い続けるでしょうか。しかも、その薬は、効く人は最初の数回で効く人がほとんどなのです。その薬をいつまでも勧め続ける医師がいたら、どう思うでしょうか?
ひとえに、得られるものが赤ちゃんという特別な存在であるがゆえに、不妊治療は引くのがとても難しいと言われています。
体外受精は何回か繰り返せば累積の出産率は上がりますが、それも通常は6回目くらいまで。国立成育医療センターで48件の40歳以上の女性を追った報告では、わずか3回目で、1割程度のところで出産率の伸びが止まっていました。
子どもが欲しい人に本当に優しい国とは
日本に長い不妊治療が多い理由のひとつとして、「体外受精で妊娠できなかった時の選択肢がない」ということも長年指摘されてきました。晩産化は先進国に共通の傾向ですが、欧米には、夫婦ふたりの家族で生きていくことも、養子をもらって育てることも日本より環境が整っている国が多数あります。そうした国では体外受精の公的補助に年齢制限があったり、医師が受け容れなくなる国もあるのですが、そのかわりに次のステップがあるのです。
子どもが欲しいと思った夫婦に対して、妊娠率がとても低くても、いつまでも不妊治療させてくれる国が優しい国なのか。それとも、妊娠出来ない可能性が高まった時点で他の道が考えやすい国が優しいのか。
今回の助成制度の再検討は、日本がその分かれ道に立ったという意味を持ちます。