電気自動車・EV/電気自動車・EV基礎知識

電気自動車の航続距離(2ページ目)

よく自動車業界で航続距離という言葉を耳にしますが、そもそも航続距離とは一体何なのでしょうか。航続距離とは、1回の燃料、充電などで自動車が走れる走行可能距離のことなのです。電気自動車の短所と言えば、その航続距離の短さが第一に目につく方も多いと思いますが、この航続距離はユーザーの日常生活のニーズを実は満たすことができるのです。

中島 徳至

執筆者:中島 徳至

電気自動車ガイド


走行距離に応じた電気自動車の使用方法

これまで何度か述べてきましたが、電気自動車の課題の一つは航続距離にあります。電気自動車普及のためにはユーザーが求める付加価値を創造し、低速・短距離でも独自の使い方のシーンを提供することがこれからの自動車メーカーには必要となります。実はその試みが少しずつ広まっているのです。以下では、電気自動車のいくつかの使用方法について具体的な例を述べていきたいと思います。

■観光地における電気自動車
日本では、中山間地域や観光地において、地域交通に十分な整備が行き届いていない自治体が多いのが現状です。そこで、地域交通網の確保のために、超小型電気自動車(超小型モビリティー)や低速電気コミュニティバスの導入が進み、観光地での短距離移動の一つの手段として利用されようとしています。

高齢者にとって車がなければ買い物や通院などの外出ができない状況は、過度の不安や負担を与えるでしょう。そして、このコミュニティバスは時速20kmと低速であるため、歩行者や自転車を怖がらせることもなく、手軽に利用できる日本に合致した交通手段ともなります。優先的な政府支援によって地方交通網の確保ができ、観光地の景観にも貢献し観光客の動員数増加にもつながります。このように、地域交通網と環境に配慮したコミュニティバスが今後必要とされる機会も増えてきます。
前橋市内を走った小型電気バス(写真:前橋市内より)

前橋市内を走った小型電気バス(写真:前橋市内より)


■ヨーロッパの超小型EV
ヨーロッパではさらに、日本の原付四輪車とほぼ同サイズのパーソナルユース用小型電気自動車が人々に浸透しつつあります。

しかしなぜヨーロッパで電気自動車が浸透しているのでしょうか。それはひとえに、私たちの知らないヨーロッパには、電気自動車を育む環境があるからです。フランスでは16歳以上であれば電気自動車を免許なしで運転でき、イタリアでは驚くことに14歳以上でれば、筆記試験に合格すれば電気自動車を運転できるのです。

また、細い路地などでの道路事情からくる取り回しの優位性や、環境負荷の少なさも理由として挙げられます。さらに、普段から近距離移動中心の人にとっては、電気自動車の航続距離の短さも気になりません。このような理由から、ヨーロッパでは近距離移動を主とする超小型電気自動車の普及が、今後も進んでいくでしょう。
ヨーロッパにおける超小型電気自動車の普及

ヨーロッパにおける超小型電気自動車の普及


■カーシェアリングとも相性が良い
近年普及してきたカーシェアリングにも電気自動車が活用できそうです。カーシェアリングとは、登録された会員内で一台の車を共有するシステムのことです。レンタカーは不特定多数の人が利用しますが、カーシェアリングは予め登録した会員だけが貸出自動車を利用できます。そのため、レンタカーのように係員が常駐した営業所があるわけでなく、基本的に無人管理システムが採用されています。

カーシェアリングでは、ひとりで車を所有するのではなく、みんなで共有することにより、様々なメリットがあります。前述した三菱自動車による調査の結果では、平日の平均走行距離は約90%が40km未満です。走行距離は短いにもかかわらず、燃料費や駐車費などランニングコストがかかります。そういった車にかかる保険料や税金、車検などの維持費をみんなで負担し、それらを使用量で支払うことで、一人当たりの費用負担は大幅に削減されます。

また、カーシェアリングが普及すると社会全体の車の台数が減り、省エネやCO2の排出削減につながります。2005年にオリックス自動車が日本で実施した調査において、会員155人を対象に74人から得た回答で、個人会員の自家用車保有率が加入前と加入後で61%から13%と大幅に減ったことが報告されています。

さらに、2013年3月末時点で、同社のカーシェアリング事業が会員数8万5747万人を突破したと発表しました。国内においてもカーシェアリングの会員数は年々増え続けており、交通エコロジー・モビリティ財団が2012年に発表した調査結果によると、日本国内のカーシェアリングの会員数は19万511人に達しました。今後はさらなる環境対応を実現するためにも、カーシェアリングの電気自動車の使用が普及することになるでしょう。
カーシェアリングのイメージ図

カーシェアリングのイメージ図

我が国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移(資料:交通エコロジー・モビリティ財団)

我が国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移(資料:交通エコロジー・モビリティ財団)


このように、電気自動車は様々な利用方法が考えられており、使用シーンによって求められる性能も異なります。時速20kmで十分な観光地もあれば、航続距離40kmで消費者のニーズに応えられるカーシェアリングやパーク&ライド、安全・低速が求められる非公道用車両、発展途上国での庶民の足として三輪タクシー利用などの用途開発により様々な市場創造が可能となります。

現在日本各地で、コンビニエンスストアの電力量と同等の大規模なCADEMO方式の急速充電装置の設置に多くの予算が割かれています。果たして充電インフラの整備により電気自動車が普及するのでしょうか。

私は日本が世界を代表する自動車大国になった今だからこそ、過去の高度成長期を彷彿させる自動車ありきの社会構造づくりに目を向けるのべきではないと思うのです。私たちはこれからスマートグリットなどの名わき役としての自動車を作り、社会的視点に合わせた無駄のない航続距離に見合うだけの充電インフラをベースに、皆が求める電気自動車の使われ方に視点を向けるべきだと考えます。

  • 前のページへ
  • 1
  • 2
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます