日本音楽界の至芸
堺正章、ムッシュかまやつ、井上順……グループサウンズきってのエンターテイメントバンド、ザ・スパイダースで一世を風靡し、50年の時を経てなおテレビやコンサート、音楽制作の第一線に立つ3人のステージは、まさに日本音楽界の至芸のひとつと言っていい。堺正章 with ムッシュかまやつ・井上順
僕が参加したのは夜の部だったが昼、夜と一日二回公演するのは、グループサウンズ時代の伝統にのっとってだろうか。60年代はコンサート一日複数回が当たり前の世界だったから、やっぱりあの時代に鍛えられた人は違うなぁと思いつつ会場に入っていくと、ロビーはお洒落なお姉さま、そしてロマンスグレーでいっぱいだった。ザ・スパイダースはあまたのグループサウンズの中でも五本の指に入る人気者。しかし、アイドル的な人気に終始していたザ・タイガースやオックスとは違い、音楽好きの男性ファンも一定数抱えているのが特徴なわけだ。
前半はザ・スパイダース時代を振り返りながら
一曲目は1965年のザ・スパイダースデビュー曲で"三つの手拍子"が特徴的な『フリフリ』。スパイダースは7人編成なのだが、かまやつのみ遅刻のため写真に参加していない
いろいろ面白いネタはあったが、バンドのトレードマークをどうしようか悩んでいたエピソードの寸劇で『化粧をするっていうのも大変だし……そうだ! ズラはどうでしょう?みんなで派手に赤とか金とか……茶色とか!』(井上順)と言いながら一斉にかまやつの頭部を見つめた一瞬は僕の今年の面白センサーナンバー1だった。かまやつさん『ふざけんなよ! この野郎!』と激怒しておられましたが。
ともあれ『夕陽が泣いている』『エレクトリックおばあちゃん』など大好きなヒットや名曲の数々をああまで楽しく味わえるなんて、なんて贅沢なひと時だったんだろう。なんと言っても日本を代表するポップスメーカーと日本を代表する司会者2人が演出している空間なのでね。こりゃもうファンでなくても必見レベルだ。
後半はそれぞれのソロ初期を振り返りながら
後半は『お世話になりました』(井上順)、『さらば恋人』『街の灯り』(堺正章)などソロ・ヒットの数々(ムッシュかまやつは前半の終わりぎわに弾き語りで『我がよき友よ』など)にはじまり、間に井上順が、三十年以上コンサートを共にしているトメ北川(ハプニングス・フォー)ら『フレンズ』と共にダンスパフォーマンスを披露したりと、前半以上に盛り沢山な内容。観客にとったら息つぐ暇もなく、気が付いたら9時の終演。
踊って歌っての連続でさすがに疲れも出てきたけれど、それでもなお魅力的に見せられるのは大御所ならではのワザと言うものだろう。『かまやつさんが限界なので』とアンコールこそなかったがラストの『風が泣いている』『バン・バン・バン』までテンションを保ちながらやり終えた姿はミュージシャン、エンターテイナーの老後の理想像であるように思われた。
音楽はエンターテイメントであって欲しい
味奉行
個人的には現代日本の流行音楽の多くは一見エンターテイメントであって真のエンターテイメントではない気がしている。サウンドやパフォーマンスは変化して当然だが、そういう表面的なことではない、大事ななにが欠落してしまったように思われるのだ。そりゃあ必死で頑張ってるK-POPに負けるのも仕方ない気がするな、と若干辛口になったところで唐突に筆をおきたい。