腰痛は安静にすることで、かえって症状が悪化する場合があります。慢性痛には、安静より運動が効果的です
さらに多くの腰痛の原因は「心理的・社会的ストレス」だとし、日常生活の改善こそが腰痛予防につながると結論付けています。
「痛いときには安静に」は迷信である
「痛いときには安静に」。痛み治療の根幹として、長らく信じられてきた安静神話。しかし、今、この安静神話が崩壊しようとしています。新しいガイドラインが安静ではなく運動を勧めるようになったきっかけは、安静によって次の痛みを引き起こすのではないか? と考えられるようになったことです。ベッドの上で寝たきりになられた方の筋肉はやせ細り、関節の動きが悪くなっていきますよね。安静にしていると、体を動かすために必要な筋力が低下し、骨が弱り、骨折や関節の変形が進みます。腰痛がおこって4日以上安静にしていた場合では、その後の機能障害が増え、1年後もその障害を引きずる可能性を示した報告もあります。
確かに、傷ができた直後で、炎症が強く残るタイミングでの安静は重要でしょう。しかし、長引く痛みのたびに安静を繰り返すことは全く意味がありません。安静は、かえって痛みを増悪させる要因であると考えられるようになりました。
痛いときに痛み止めを飲んでも治らない
これまで、腰痛や肩こりなどの痛み治療と言えば、痛み止めを飲んで治すことが常識でした。しかし、ストレスが痛みの原因であるならば、いくら痛み止めを飲み続けても、よい治療結果が出るとは限りません。長期間、痛みがうまくコントロールできない場合には、痛み止めに依存する治療方針を見直す時代が来ています。慢性痛には、痛み止めではなく運動を
「痛いなら、痛み止めを飲む」。この常識が変わろうとしています。日本で痛み止めというと、ロキソプロフェン(ロキソニン)やエテンザミド、ジクロフェナク(ボルタレン)、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)をさすことが多いようです。日本は、痛み止めの一種であるNSAIDsの世界的消費国です。NSAIDsは、細胞膜の成分を原料にして作られるプロスタグランジン(PG)の合成を抑制することで、鎮痛効果を発揮します。PGは、けがなどによって細胞が傷ついたときに起こる炎症の原因物質です。ですから、NSAIDsは、転んで膝をすりむいた痛みや、手術後の痛みなどの急性痛には、とても有効です。
しかし、3か月以上続く慢性痛には、NSAIDsは効かないといわれています。なぜなら、NSAIDsが効くべき痛みを感じる部位の炎症は、すでに治まっているからです。慢性痛では、炎症以外の原因によって痛みを感じているのではないか? と考えられ始め、NSAIDs以外の痛みを和らげる薬が処方されるようになっています。具体的には、非麻薬性鎮痛薬(トラムセット)、プレガバリン(リリカ)、抗うつ薬、抗てんかん薬などです。慢性痛治療の新しい流れとしてNSAIDsに頼る処方が見直されるとともに、治療ガイドラインの変更や運動療法の推奨が示されるようになりました。
慢性痛に効くリハビリテーション治療
慢性痛治療として、世界中でリハビリテーションが見直されています。痛みには、どのタイプのリハビリテーションが効果的なのか? リハビリテーションの効果比較試験や研究結果を検証することで、その有効性がさらに分かってきました。Haydenらによると、慢性痛の代表である腰痛には、
- 20時間以上の高頻度エクササイズが効果的である
- 個人の体力や能力別のプログラムを専門家の指導の下、継続することが、より治療効果を高める
- 痛みを緩和するにはストレッチングが有効であり、機能改善には筋力増強エクササイズが効果的である
世界各国の腰痛治療ガイドラインによると、医学的論拠が高く、推奨グレードも高い治療方法として、運動療法、認知行動療法、鍼治療などが示されています。一方で、現在一般的に行われている物理療法やコルセットなどの装具療法は推奨グレードが低く、効果もはっきりしないといいます。
「痛いのなら、痛み止めを飲んで安静にしてください」。
痛みの改善が見込めない薬物治療を押し付けるのは、医者のエゴです。また、安静による副作用を知らせないことも、さらなる罪です。慢性痛に対する薬物治療や安静、手術療法の有効性に限界が見え始めた、今。これまでの慢性痛治療の常識が、変わろうとしています。