心臓・血管・血液の病気/その他の心臓・血管・血液の病気

ASKAさんを襲った一過性脳虚血(TIA)とは?

「CHAGE and ASKA」のASKAさんが一過性脳虚血症のため仕事を延期して治療に専念することになりました。この一過性脳虚血は重大な病気である脳梗塞の前ぶれなのです。きちんと調べ、脳梗塞を予防すればまた元気な状態にもどれます。ASKAさんの歌がまた聴けるよう、そして皆さんの健康が守られることを祈りながら解説します。

米田 正始

執筆者:米田 正始

心臓血管外科専門医 / 心臓病ガイド

TIA

TIAが起こればすぐ病院へ!

報道によれば CHAGE and ASKAのASKAさんが一過性脳虚血症のため仕事を延期して治療に専念されることになりました。一過性脳虚血症とはどういう病気なのでしょうか。




ASKAさんの一過性脳虚血症報道

朝日新聞デジタル2013年6月11日19時1分
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「チャゲアス」活動再開を延期 ASKAさん体調不良で
「SAY YES」などのヒット曲で知られる人気デュオ「CHAGE and ASKA」のASKAさん(55)が、脳への血流が悪くなる「一過性脳虚血症」の疑いと診断され、8月に予定していた2人の活動再開ライブを延期すると11日、ホームページで発表した。

所属レコード会社によると、ASKAさんは5月ごろから、めまいや吐き気などの体調不良を訴えた。精密検査の結果、「重篤な状態ではないが、当面の間治療とともに静養し、病状の経過観察が必要」と診断されたという。

今年1月、4年前から休止中だったデュオとしての活動を再開すると公表したばかりで、8月は6年ぶりの2人のライブになるはずだった。
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一過性脳虚血発作(TIA)とは何か

TIA

脳の一時的な血流停止のために起こります

TIAとは脳へ流れるべき血液が一時的に止まる状態です。小さくても脳梗塞が起こっているケースが知られています。ともあれ脳卒中に似た脳機能障害が一時的とはいえ起こります。その持続時間は通常、1時間以内です。つまりそれ以上になると本物の脳梗塞になるのです。

そのためTIAの症状も脳梗塞と似ています。たとえば意識が薄れるとか、手足が動きにくくなる、あるいはろれつが回らなくなるなどですね。それらの症状が1時間以内に治まる点で脳梗塞とは違いますが症状そのものはそっくりです。

TIA

TIAは重大な病気のまえぶれです

症状が一時的なのでTIAは大したことはないのかと言えばそうではありません。TIAは、本格的な脳梗塞がまもなく起きそうだという警告なのです。脳梗塞の約半数はTIAから1年以内に起こり、その多くがTIAから数日以内に起こります。そのためTIAを大したことはないなどとたかをくくって本当に脳梗塞になってしまうのは大変残念なことなのです。TIAがあれば、すぐきちんと調べ対応することで、脳梗塞を予防しやすくなるからです。

以前は、TIAの症状が早く回復するのは、TIAでは一時的な脳障害のみしか起こらない、つまり脳細胞が死なないからだと考えられていました。しかし今では、TIAは小さくても脳梗塞であり、脳梗塞の場合と同じように脳細胞が多少とも死ぬと考えられています。TIAと脳梗塞の違いは、TIAでは通常、損傷が非常に小さいということだけです。なのでTIAは超重要で危険なサインなのです。

ということでASKAさんがしばらく治療に専念されるというのは正しい判断ではないかと推察されます。

TIAの原因

原因

動脈硬化や血栓が原因のひとつです

TIAと脳梗塞の原因はほぼ同じです。ほとんどのTIAは、血液のかたまりである血栓や、動脈硬化によって生じた脂肪分(アテロームないしプラーク)が、心臓や頸動脈、脳の動脈の壁からはがれて血流に乗って移動し、脳の動脈を詰まらせることで発生します。

心臓が原因の場合を心源性、それ以外を非心源性とよびます。他には、血中酸素濃度の極度の低下、赤血球の重度の欠乏(貧血)、一酸化炭素中毒、血液の粘度の上昇(赤血球増加症)、重度の低血圧などが原因 でTIAが発生することもあり、特に、動脈硬化などのために脳への動脈が細くなっている場合TIAが発生しやすくなります。

TIAの症状の特徴

TIAの症状は突然出現します。症状は上記のように脳梗塞と同じですが、一時的であり、回復します。症状は通常、5分以内に治まり、1時間以上続くことはありません。患者さんのお話しを聴くだけでは虚血以外の原因、特に出血を完全に除外することは難しいので、CTかMRI検査は必須です。

TIAの診断法

TIA

TIAが起こればすぐ病院へ!

脳梗塞とよく似た症状が突然出現した場合は、たとえすぐに回復したとしても、救急外来を受診してください。けいれん発作、脳腫瘍、片頭痛、低血糖などでも同じような症状がみられるため、さらなる検査が必要になります。

TIAが起こったと考えられる場合は、TIAの後すぐに脳梗塞が起こることがあるので、すぐに診察となります。実際オックスフォードでの研究ではTIAの発作後1週間以内に8.0%,1か月以内に11.5%、3か月以内に17.3%と高率に脳梗塞がおこります。

脳梗塞危険性の評価スコアとして「ABCD2スコア」が広く用いられ、点数が高いほど脳梗塞が起こる危険性が高いです。

アテローム血栓性や小さい動脈が詰まって起こるラクナ梗塞などの非心源性TIA、心臓でできた血栓が流れてきて詰まる心源性TIA、その他に分けて考えます。

検査

きちんと調べるとまもなく方針が立ちます

非心源性TIAのうちアテローム血栓性の診断には心臓から脳までの間のどの動脈で血栓ができたかを知ることが必須で、頸動脈超音波検査、MRA、CTAなどの検査が必要でとなります。内頚動脈、椎骨動脈、脳動脈などを調べます。50%以上の狭窄があればアテローム血栓性の可能性が高いでしょう。アテローム血栓性梗塞はTIAがまえぶれとして起こることが最も多く、TIA後の脳梗塞発症率も高いので、迅速に脳血管の検査を実施することが重要です。なおMRIの拡散強調画像(DWI)は急性期の脳梗塞を見つけるのに有用です。

心源性TIAの場合、心房細動(脈が不規則になる不整脈です)をはじめとした原因追究のために心電図、経胸壁心エコーが行われます。どうしても疑いが晴れないときには経食道心エコーも行われます。

その他の原因の場合、若い患者さんや脳血管障害のリスクのないケースでは抗リン脂質抗体など、血液凝固系の異常についても調べます。いろいろ調べても原因が明確にできないこともあり、丁寧に経過を追うこともあります。

TIAと紛らわしい病気・見分け方

TIAと紛らわしい病気として次のものがあります。

失神

失神では他病と見極めることが大切

たとえば失神、良性発作性頭位めまい、片頭痛の前兆、てんかん発作、一過性全健忘、低血糖、過換気症候群、パニック発作などがあげられます。

それらのなかで失神はTIAとは違って体の一部に症状がでることがないのが特徴です。脳血管よりも先に不整脈や心臓病の鑑別がまず必要です。

良性発作性頭位めまいは頭位変換に伴う短時間のめまいで、その他の神経の症状がないことからTIAとは見分けがつきます。

片頭痛の前兆としてよく起こる閃輝暗点(目の前に稲妻のようにキラキラと光るものが見える症状)では、その後に吐き気や嘔吐を伴う頭痛があるため多くは見分けがつきます。

TIAの治療法……迅速に、ていねいに

TIAは速やかな対応が必要な病気です。「脳卒中治療ガイドライン2009」でもできるだけすみやかな原因究明と、脳梗塞発生の予防のための治療を直ちに開始することが推奨されています。

脳梗塞を予防するため、まず抗血小板薬であるアスピリンや、低用量アスピリンとジピリダモールの配合錠剤、クロピドグレル、パナルジン、プレタールなどは、血栓を形成されにくくして、 TIAや脳梗塞のリスクを減らします。脳梗塞の危険性が高そうな状況では急ぎアスピリンが必要です。また並行して高血圧、高コレステロール、喫煙、糖尿病などの原因をコントロールします。食事・運動療法と禁煙やお薬ですね。

発作が繰り返しておこり、持続時間が長くなる場合は脳梗塞が迫っているため緊急入院ののちヘパリンなどの点滴での治療が急ぎ必要となります。ASKAさんの場合も、詳細は不明ですが、こうした脳梗塞予防のために大事をとって入院治療になったものと推察されます。

頸動脈の
TIA

手術が必要なこともあります

狭窄の程度は治療のうえで大切です。たとえば、頸動脈が 70%以上狭くなっているなどリスクが高い場合、頸動脈内膜切除術(略称CEA)を行うことがあります。これは、内頸動脈にできたアテロームや血栓を取り除く手術です。

TIA発生後1か月以内に行うのが有効とされています。ただし、手術中に血栓などがはがれて脳梗塞が起きる恐れもあります。しかし手術後は、薬物療法を行った場合より、脳梗塞のリスクが数年にわたって低くなります。

CEA手術が危険な場合は頸動脈ステント留置術(CAS)が有効です。最近はCASを第一選択として行う病院が増えました。椎骨動脈など他の動脈は、動脈内膜切除術によるリスクが内頸動脈より高いため、狭窄があっても手術しないことがあります。

身体の状態が悪く手術が危険なときにはステント治療が行われることがあります。この治療では、先端にバルーンがついた細くて柔軟なチューブ(カテーテル)を狭窄のある動脈に挿入します。狭くなった部位で数秒間バルーンをふくらませて動脈を広げます。広がった状態を維持するためにステントと呼ばれる金属製の網のようなチューブを動脈内に留置します。

なお頸動脈病変のあるTIAでは心臓の冠動脈に病気があることが多く、そのままではいのちの危険があり得るため一見症状がなくても冠動脈の一通りの検査が勧められます。

TIA

心臓を治さねばならないことも

心源性TIAつまり心臓に原因がある場合は、心房細動や心筋症、急性心筋梗塞などの可能性をまず念頭におきます。また卵円孔開存がある患者さんでは深部静脈血栓症も考えて治療に臨む必要があります。

これらのケースでは抗凝固療法が必要となります。抗凝固薬はワーファリンか経口抗トロンビン薬のプラザキサがあります。ワーファリン はINRという血液検査の値で使う量を調整します。プラザキサは使用前の出血傾向、腎臓の機能、年齢、使用中の出血や貧血などを考慮して使う量を調整します。

まとめ

以上のようにTIAはとりあえずは治るといっても、脳梗塞がすでに起こりつつある、そしてまもなく大きな脳梗塞が起こる重大なサインです。油断することなく、ただちに病院へ行き、適切な診断と治療によって脳梗塞という悲劇を起こさないようにしたいものです。最後になりましたがASKAさんの全快と素晴らしいコンサートの再開を祈ります。

参考サイト:
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