牛田智大くんの深い音楽性の秘密
大:牛田さんはとても音楽性の深い演奏が特徴だと思います。大人のプロ演奏家でも音楽性の深浅というのはあると思いますが、牛田さんはどの時点でそうした音楽性の深さを身に付けたのでしょう?牛:まず、そう言っていただいてありがとうございます(笑)。そうですね……、知らないうちに、ですかね(笑)。先生が、小学生になったばかりの早い時期に、音楽性を伸ばすために自分が出したい音を出すにはそれぞれどういうタッチにしたらいいかとか、レガートの演奏法を教えてくださったことが、良かったのかなと思います。
大:なるほど。読書が好きと伺っていますが、音楽性を育てることに役立つのでしょうか?
牛:はい、読書は好きです。特に重松清さんが好きです。
大:13歳と思えない好みですね(笑)。
牛:(笑)。本を読むことによってイメージが作られていくことは、たまにあります。音楽にも文学からインスピレーションを受けたものがたくさんありますから、リンクするものもあるかなぁと思います。
大:今演奏する上で肥やしになっている助言などありましたら教えてください。
牛:9歳のときに、ピオトル・パレチニ先生(名教師として知られる、ショパンコンクールで活躍したポーランドのピアニスト)が「隣の部屋で弾いているような、ピアノ(弱音)が衰退していくような音楽を大事にしなさい」とおっしゃってくださったのが本当に印象に残っています。それまではフォルテ(強音)に向かっていくようなガンガンガンッという音楽を目指していたので、方向が変わりました。
大:牛田さんが最初に憧れたというラン・ランさんもかなり強い弾き方をされますよね。
牛:あ、でも、ラン・ランさんも、ショパンを弾かれるときなどは、ピアノ(弱音)に向かっていく美しい音楽を演奏されるので「こういうことなんだなぁ」と思います。
そう、ラン・ランさんにレッスンをしていただいた際に、レガートの仕方や、イメージから音楽を作っていくことなどを教えてくださって、そこから本当にイメージを大切にして音楽を作るようになりました。
大:憧れの人に良いアドバイスをいただけたというのは幸せなことですね。他に好きなピアニストとしてラドゥ・ルプーとサンソン・フランソワがいらっしゃると知り、驚きました。僕もフランソワが大好きですが、2人とも個性的ですよね?
牛:(笑)。フランソワさんはとてもしっくりくるものがあって、大好きな演奏家です。あと、ウラディーミル・アシュケナージさんも好きです。
大:なるほど、音を聴かせるピアニスト、というところに共通点がありますね。最後に、ご自身はどういうピアニストになっていきたいのか教えてください。
牛:自分の演奏を通して、その曲のおもしろさや良さを伝えられるアーティストになれればと思っています。最近はロシアの作曲家、特にチャイコフスキーに興味を持っています。協奏曲や室内楽もたくさん勉強していきたいですね。今までに協奏曲もやっていますが、一緒に音楽を作っていくという過程が楽しくて、いいなぁっていつも思っています。