辞典でわかることは限られている
Q 漢字に対するイメージや好みは人によってちがうでしょうが、一般に名前に向くとされている漢字を使えば難点のない名前になるでしょうか?A 漢字というのは意外に難しいものです。名前に向く字かどうかは、次のような検討が必要です。
1. まずどなたも考えるのは、市販の辞典に悪い意味が載っていないか、ということでしょう。それはもちろん大切なことで、本人が辞典を引いた時に悪い意味が書いてあったのでは気分を悪くします。ただ漢字は長い歴史の中でたくさんの意味が生じているものもあり、辞典の厚さによって載せている意味の範囲がちがうこともあります。
2. 漢字はどのような意味で使われてきたかということだけでなく、そもそもその字が作られた時に何を表現するために作られたのかという、いわゆる成り立ちというものも大切になります。ただしこれについては正しく体系的に解説をした本も無く、残念ながらご自分で調べる方法はありません。
3. 意味のよい字でも、実社会で名前に使うには不便な字というのもあります。活字に変換できない字、日ごろ使われない珍しい字、電話などで説明できない字、似た字と混同しやすい字、最近使われなくなって年配の人の名前に見えてしまう字、などは名前に不向きです。
漢字がよくても名前がよいとは限らない
命名の専門家が名前に向く字のリストを作成する時は、何十年もの研究に基づき、以上の3つの面をすべて吟味した上で範囲を決めます。ただし漢字そのものに問題がなくても、使う動機によっては気をつけるべき字というのがあります。たとえば昔から子供の生き方に願いをこめて、正、徳、孝、敬、忠、礼、信、義、など儒教道徳をあらわすような字が多く使われた時期があります。しかしこういう字が入った人の一部には犯罪者も出ているのです。また健康長寿を願って生、久、寿、などの字が名前に入れられることもありますが、こうした名前の人が大病をすることもあるのです。
つまり漢字を名前に入れるさい、本当にその字自体が気に入って使うならいいですが、本人に何かの要求をこめて「まじない」に使うと結果が裏目に出てしまうこともあるわけです。これは名づけを職業にする者が何十万、何百万という名前を見て体験的に感じていることですので、理論的に証明できることではありませんし、もちろんいかなる本にもそういう説明は載っておりません。
また言うまでもないことですが、漢字に問題が無ければ名前に問題が無いかというと、そうとも限りません。いくら漢字に問題が無くても、他人に読めない名前とか、男女間違えるような名前になっていれば致命的な難点をもつ名前ということになります。漢字の吟味だけでなく、名づけの基本も忘れてはいけないのです。