ドキュメンタリー映画史に残る作品
『日本解放戦線 三里塚の夏』
■監督小川紳介
いま成田空港のある場所は、長年、空港を建設する国側と、土地の農民たちとの戦いの場所です。
この映画は1968年、その渦中にとにかく飛び込んでみて、がむしゃらにカメラを回したことで作られた映画です。
ふつうの人たちにとって、カメラが目の前にあるということは非日常的な状態であって、そんな状態の中でリアル、日常は本当に撮ることができるのか。
その答えの一つがこの映画であり、小川紳介という映画監督の映画の作り方のように思えます。
小川はこの映画を撮る前に学生闘争の映画を撮っていたこともあって、最初は学生の側からこの
運動に「映画班」として参加しました。
ですがその場所にある混沌とした状況に、どうカメラを向けていいのかもわからず、
その混沌と、混乱した映画班たちの心情そのものが画面に出てしまっています。
しかし映画班のカメラマンも撮影中に逮捕され、また学生たちと討議する土地の農民たちの声を聞くにつれ、映画班は農民たちのそばに寄り添うような形で、だんだんと映画としての「視点」を獲得していきます。
これは三里塚闘争のドキュメンタリーであると同時に、彼らがいかにして映画を撮ることができるようになったか、というドキュメンタリー映画でもあるのです。
農民たちと映画を「穫る」、小川はこの特異な映画のあり方を後に世界に知らしめることになるのですが、その最初の出発点としても、それがいかにして獲得されたものであるか、という意味でも、
非常に重要な、ドキュメンタリー映画史に残る作品です。