爽やかな気分になれる、奇抜なストーリーのハードボイルド映画
『多羅尾伴内 七つの顔の男だぜ』
■監督小沢茂弘
■主演
片岡千恵蔵
■VHS発売元
東映ビデオ
■名探偵・多羅尾伴内が大活躍
歌舞伎役者・片岡千恵蔵さん主演の「多羅尾伴内シリーズ」の最終作品です。
殺人事件が起こり、名探偵・多羅尾伴内がさまざまな変装して少しずつ敵の正体を掴み、最後は諸悪を根絶します。
「七つの顔の男」というタイトルのとおり、多羅尾伴内は7種類の人物を演じます。ラストシーンで敵と対峙し、片目の運転手、香港丸の船員、手品好きのきざな紳士などを明かし、最後に「しかしてその実体は……正義と真実の使徒、藤村大造だ!」と初めて本当の正体を明かします。
そして警察が来る前に二挺拳銃で次々に敵を打ち倒し、オープンカーで去っていくのです。
■コミカルにも見えてしまうが……
このように書くと非常に格好いい映画に感じられるかもしれませんが、見ていると笑ってしまう場面がいくつもあります。この映画を知ったのは、林家木久扇さんの「昭和芸能史」という創作落語でした。あまりにも興味があったので家族全員で見ると、予想以上にツッコミどころ満載の映画でした。
多羅尾伴内は変装をしていますが、どう見ても多羅尾伴内にしか見えないこと、中国の大富豪に化けてカジノに行き、「イエス」と「オーケー」しか英語を使わないのに日本人だとばれません。
話し方も完全に歌舞伎の大見得を切るようで、今の時代に見るとかなり不思議な雰囲気です。
最後はなぜか二挺拳銃を使うのですが、銃刀法に違反していないのか気になってしまいます。
■昭和のヒーローの「原型」的な存在
確かにストーリーは荒唐無稽ですが、悪を懲らしめるという時代劇の流れをそのまま辿ったようなストーリーは痛快です。また、変装するのも多くの人が持つ「変身願望」にはまったのかもしれません。多羅尾伴内シリーズが始まったのは昭和21年ですが、多羅尾伴内が月光仮面のようなヒーローの原型に思えます。
ハードボイルド映画で奇抜なストーリーですが、見終わると爽やかな気分になれる作品でした。
古き良き時代のヒーローや当時の雰囲気を伺い知ることができる1本です。