黒澤明監督の「羅生門」が製作のきっかけとなった映画
■作品タイトル去年マリエンバートで
■監督
アラン・レネ
■主演
デルフィーヌ・セイリグ
■DVD/Blu-ray発売元
ジェネオン・ユニバーサル、紀伊国屋書店ほか
ただタイトルが気に入ったという理由と、ヌーヴォー・ロマン(フランスの実験的小説)の旗手である
アラン・ロブ=グリエが脚本を手がけ、衣装をココ・シャネルが手がけているという理由だけで本作を観ました。他に情報はありませんでした。
正直に申しますと2、3度観ながらうとうとしました。
さらに告白致しますと、本作を観たのは今からおよそ10年前です。
にもかかわらず、本作を観たときの印象の断片は、今もなお鮮明に残っています。
主人公はXです(冗談ではありません)。XはA夫人と再会します。
AはXに、去年マリエンバートで会ったかと尋ねます。Xは憶えていません。
しかし、Aの話を聞くうち、Xの記憶は……。
これが一応のストーリーですが、あれを観てこのストーリーをすっかり説明できる人が、
いったいどれだけいるでしょうか。この際、ストーリーは無視しましょう。
というのは、脚本家ロブ=グリエはなんと、4つの脚本を用意していたのでした。Xの側から見た脚本とか、A夫人の側から見た脚本とか。それらをつなぎ合わせてひとつの脚本を仕上げたそうです。
しかも、本作の脚本を書いたきっかけは、黒澤明の『羅生門』だそうです。
本作のタイトルを耳にすると決まってはっきりと思い浮かぶのが、幾何学模様の庭園に断つ人影の過剰な長さ。うとうとしていたくせに、忘れようと思っても忘れられない場面。
調べてみたら、実はその影は、地面にじかに描かれたものだったと今更ながら知りました。
驚いています。あの場面の感動もまた、完全にコントロールされていたような気になって……。
いい意味で、悪夢のような映画です。