演劇×谷崎のスタイリッシュな出会い 『春琴 Shun-kin』
2008年に英国演劇界の鬼才・サイモン・マクバーニー氏が 文豪・谷崎潤一郎の「春琴抄」 「陰翳礼讃」の両作品をモチーフとして構成・演出を手掛け 、主演に深津絵里さんを迎えて上演された「春琴」。国内のみならず海外でも大きな称賛を受けました。更に2009年、2010年と再演を重ね、 2013年7月には舞台芸術の殿堂ニューヨークのリンカーンセンター・フェスティバルに正式招待が決定し大絶賛の内に閉幕。そして満を持し、8月には世田谷パブリックシアターで凱旋公演が行われます。「英国演劇界の鬼才」 「谷崎」 「海外でも称賛」なんて並べると「何だか難しそう」 「お勉強する為に劇場に行きたくない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。イヤイヤイヤイヤ、そんな先入観は一旦横にバサっと置いて観て頂きたいとガイド的には思います。というのも、演出家・サイモン・マクバーニー氏と深津絵里さんを始めとする出演者たちがワークショップと話し合いを重ね一から作った本作には、普段私達が何となく見過ごしている「和の世界の美しさ」が溢れ、その舞台は静かな迫力に満ちています。
生で演奏される三味線とスタイリッシュな照明の融合はただもう単純にカッコ良い!舞台上に置かれているのは確かに見慣れた日本の建具なのに何かが新しい!その中で凜と立つ深津絵里さんの透明感と存在感は圧巻ですし(深津さんの’声’の表現力、素晴らしいです)春琴を献身的に支える佐助を演じる成河(ソンハ)さんの痛いほどの思いは、誰かを心から好きになった経験がある人ならその姿を自分に重ね、ギュギュっと心の深い場所を掴まれてしまうはず。時代や背景は違っても、今を生きる私達に通じる心情がきちんと描かれているんですね。
幼少時の春琴がどういう形で演じられるのか、幼い頃から献身的に春琴を支えてきた佐助が最後にどんな行動に出てしまうのか。文豪と英国人演出家、そしてその世界を体現する俳優たちが紡ぐ物語。究極の愛の形を是非劇場で体感してみて下さい。
撮影 久家靖秀
『春琴 Shun-kin』 谷崎潤一郎「春琴抄」「陰翳礼讃」より
2013年08月01日(木)~2013年08月10日(土)
世田谷パブリックシアター 一般 S席7,500円/A席6,000円
演出 サイモン・マクバーニー
出演 深津絵里/成河/笈田ヨシ/
立石涼子/内田淳子/麻生花帆/望月康代/瑞木健太郎/高田恵篤/
本條秀太郎(三味線)
「世田谷パブリックシアター 春琴」
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2013/08/shunkin.html
時も場所も人の心も交叉する不思議な世界 『音楽劇 あかい壁の家』
若い世代も巻き込んで現在大ヒット中のNHKの朝ドラ「あまちゃん」。 その中で海女クラブの一員として異彩を放つ今野弥生役を演じているのが、 オフィス3○○(さんじゅうまる)の代表であり、劇作家、演出家でもある渡辺えりさんです。そんな渡辺えりさんの新作「あかい壁の家」では、イタリアの遺跡ポンペイと東北のある港町を舞台に3○○(さんじゅうまる)お得意の、時間も空間も飛び越える不思議な物語が展開します。「ポンペイ」と「東北のある港町」 2つの消えた街が’オデオン’でつながり、1つの旋律で今よみがえる! 宮城の漁師の息子、代用教員の凡平は、投函されなかった父の手紙を発見。その中には一枚の謎の譜面があった。その旋律に誘われ、凡平はイタリア・ポンペイの廃墟の劇場へと旅立つ……。
ハイ、このあらすじを読んで今作の内容をババっと理解できる方はなかなかいないのではないかと思います。勿論、ガイドもその1人です。所謂「小劇場」と呼ばれる演劇の形態には様々な形があるのですが、渡辺えりさんが描く世界はどこかリリカルで少女らしさもあり、まるで小さい頃過ごした家に長い時を経て帰り、懐かしい扉を開けたような不思議な気持ちを呼び覚まされる作品が多いと思います。それは頭で論理的に物語の筋を追い納得する感覚とは一味違って「何だか分からないけどワクワクする」とか「上手く言えないけどとても切ない」そんな気持ちに近いかもしれません。1+1が2で決定、という世界ではなく、1+1が64になったり-15になったりするちょっと不思議な感覚。それもまた観劇の醍醐味の1つなんです。
本作は音楽劇という事で、客演にはミュージカル界の異端児・中川晃教さんを迎え 、物語の中で重要なパートを受け持つ劇中音楽劇の作曲も中川さん自身が担当。 そして往年の小劇場ファンにはたまらない緑摩子さんの客演も決定しています。夏真っ盛りの時期に観るちょっと不思議でどこか切ない物語。ミュージカル界、映像、小劇場と色々な分野で活躍する俳優さん達の熱いコラボレーションも見どころの1つです!
あかい壁の家
2013年8月1日(木)~8月11日(日)
本多劇場 全席指定6900円
作:演出 渡辺えり
出演 中川晃教/高岡早紀/馬渕英俚可/稲荷卓央/土屋良太/田根楽子/若松武史/
緑魔子/渡辺えり 他
※本多劇場公演後、地方公演あり
「オフィス3○○(さんじゅうまる)」
http://office300.co.jp/akaikabenoie.html
いかがでしたか? 太陽の下、アウトドアで開放感に浸るのもいいですが、涼しい劇場で気持ちを熱くしてみるのも素敵な夏の過ごし方かもしれません。劇場での非日常Trip体験、あなたも是非!