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辻村深月が故郷とは何かを描く『島はぼくらと』

「地方都市に閉じ込められた女性たちの孤独や苛立ちがよく描かれている」と高く評価された直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』から1年。辻村深月の最新作『島はぼくらと』を紹介します。

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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辻村深月『島はぼくらと』

「地方都市に閉じ込められた女性たちの孤独や苛立ちがよく描かれている」と高く評価された直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』から1年。辻村深月が地方で暮らす人を主人公にしながらまったく切り口の異なる小説を上梓した。

『島はぼくらと』。舞台は瀬戸内海に浮かぶ小さな島、冴島だ。一時期は人口が減っていたが、Iターン(他の土地から移住してきた人)を積極的に受け入れることによって活性化した。地元のおばちゃんたちが特産品を加工する会社を立ち上げ、人気を博したりもしている。

天国にいちばん近い島でも獄門島でもない、今時の日本の島で育った幼なじみ4人組の青春と、さまざまな背景を持つ大人たちのつながりを描く。高校を卒業したら故郷を離れなければならない少年少女、故郷から逃れてきたシングルマザー、他人の故郷を再生する仕事をしながら各地を渡り歩いている女性。登場人物を通して、故郷とは何かを問う。

島には「兄弟」の誓いを交わしたら他人でも家族同然に扱うという習慣がある。都会の価値観で見るとしがらみになってしまいそうなものが、作中では希望に結びつくところが素晴らしい。小さなコミュニティならではの生臭い一面に対しても、これまでとはちがう向き合い方をしている。

『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』や『水底フェスタ』で田舎の息苦しさを徹底的に追求した辻村さん。『島はぼくらと』で、新しい扉を開いた。その先にどんな世界が広がっているのか、ぜひ確かめてみてほしい。

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