糖尿病/その他の糖尿病の合併症

糖尿病の隠れ神経障害の早期発見と治療 (2)

体の奥深いところで神経は心臓の拍動から呼吸、食物の消化、排尿、発汗など生命を維持するすべてのことを統率しています。これらは自分で意識してコントロールしているわけではないので自律神経といわれますが、糖尿病はこれらの神経も障害します。

執筆者:河合 勝幸

ボストンテリア

瞳孔の反応も自律神経障害で遅くなります。急に明るいところや暗いところに移ると眼が順応できません。危険ですが治療することが出来ませんから日常の行動に注意しましょう。(photoはもちろん「目力」のイメージ、ボストンテリアです)

体の奥深いところで神経は心臓の拍動から呼吸、食物の消化、排尿、発汗など生命を維持するすべてのことを統率しています。これらは自分で意識してコントロールしているわけではないので自律神経といわれますが、糖尿病はこれらの神経も障害します。
自律神経障害は特定の臓器や器官系に起こりやすく、医師はこれらの障害を見分ける技術を進化させています。自律神経障害は症状の重さにもよりますが、私たちのQOLに大きな影響を与えます。医師の治療だけでなく、患者自身が毎日行うセルフケアがとても大切な意味を持っています。以下はそのアドバイスです。

糖尿病の自律神経障害の症状、早期発見の方法

心臓血管系の症状、早期発見法
心臓血管(cardiovascular)というと心臓の血管と思いがちですが、心臓と全身の血管、つまり心臓と循環に関する神経障害です。自律神経障害はつらいものですから、何とかしてもらおうと患者は熱心に医師に相談に行きます。しかし、心臓血管系の場合はそうでもないかも知れません。狭心症を起こしても糖尿病患者は痛みを感じない人もいるのです。心臓発作でさえそれと気づかないこともあります。だから糖尿病患者は致命的なことになりがちです。

早期発見
早期のサインは睡眠中などの安息時に心拍数が異常に高まることです。睡眠中は正常なら呼吸も心拍数も低下していますが、心肺の神経が障害されると心臓の拍動と呼吸がシンクロしなくなってしまいます。血液が必要な時、たとえば走っても心拍数が上がりませんし、逆に静かな呼吸の睡眠時に心拍数が100拍/分を超えてしまいます。
別の症状では立ち上がる時の低血圧(立ちくらみ)があります。立ち上がる時は自律的に下肢の血管を収縮し、心臓を強く打って脳の血圧を維持するのですが、それがうまく出来なくなってしまうのです。

治療
立ちくらみには血圧を上げる薬が処方されることがありますし、下肢の血液の戻りを促進するタイトなストッキングを着用することもあります。食事の塩分を増やす選択肢もありますが、もちろん全ては医師の判断に従うように。

セルフケア
  • 座っていたり、横になっていた時はゆっくりと起き上がること。睡眠から目覚めた時はベッドから足を降ろして安定するまで待つ
  • ベッドの頭を30度に上げる
  • エアロビックや力を使うエクササイズ、力仕事などを避ける
  • 禁煙
消化器系の症状、早期発見法
胃や腸の自律神経が障害されると大変なことになります。食べた物が食道を正常に通過できなくなると、詰まってしまったように感じます。毎日がこれではなんとも不快なことです。
消化管の神経障害は、胃不全麻痺(胃ぜん動の低下で胃内容物が停留する)、下痢便秘などです。胃不全麻痺は神経が胃の筋肉を正常に刺激しないため、消化の終った食物が停留して胃が空になるのが遅れます。結果として吐き気や嘔吐、低血糖(食事時のボーラスインスリンがピークになっているのに、食物がまだ小腸から吸収されていない)などが起こります。

早期発見
呼気を検査したり、薬品や安全な放射性物質をトレースして胃排出能検査をすることができます。特別なスキャナーで胃から食物が速くあるいはゆっくりと移動するさまを探知します。また、胃カメラで胃不全麻痺に見せかける別の病因を発見することもあります。

治療
消化のよい食事にするのが第一です。日3回の食事ではなく、小さな食事を1日4~5回に分けて食べることも薦められています。吐き気を抑える薬や胃を活動的にする薬の処方、心臓のペースメーカーのように腹部の皮下に収めて消化管の活動を刺激する装置もあるそうです。

セルフケア
の消化のためには低脂肪で食物繊維の少ないものを。また、食前に服用する薬もあります。インスリンを使っている人は低血糖予防に血糖測定を増やすこと。逆に便秘対策には食事の食物繊維を増やしたり、水分を十分に取ること。体の活動量を増やす、医師の処方で便秘薬を使用することなど。やっかいなことに、自律神経障害では下痢と便秘を繰り返すようにもなります。
下痢は糖尿病歴が長くインスリン治療の患者に多く見られます。便意がないので失禁することも多く、特に夜間に起こるのが一般的ですからなんとも悲しくなります。肛門括約筋の神経が障害されているので人口肛門の手術を受ける人もいます。いろいろな検査を受ける前に食事や薬の内容を医師と一緒にチェックしましょう。血糖を上げにくい甘味料、ソルビトールなどの糖アルコールを取っていると下痢になりやすくなります。カフェインの取り過ぎ、下痢と相反する便秘薬、意外なものではマグネシウムを基材とした胃の制酸薬などが原因であることもあります。特に最後のマグネシウムを使った制酸薬は、米国では糖尿病患者の下痢の原因のトップですから注意しましょう。

ぼうこう
ぼうこうの神経が障害を受けると完全に排尿することが困難になります。尿路感染症を繰返す人や腎炎、失禁、排尿が不完全な人はぼうこうの神経障害の検査を受けましょう。

早期発見
ぼうこうの神経障害の疑いがある人は、排尿後にどのくらいの尿がぼうこうに残っているか医師は検査するでしょう。もちろん、炎症検査や女性の場合は婦人科で別の原因を検査することもあります。男性のEDも神経障害に起因することがあります。

セルフケア
2~3時間ごとに強い尿意がなくても排尿する。尿路感染の前兆があれば担当医に連絡すること。排尿の回数が少ない、尿の勢いが弱い、排尿のスタートがなかなか出来ない、ちびちびと出る、おもらしをする……これらも自律神経障害の症状です。

汗腺
信じられないかも知れませんが、汗をかくのも神経にコントロールされています。そして糖尿病によって障害を受けます。足の皮膚がかさかさに乾くのもありふれた神経障害で、ひび割れた皮膚から潰瘍のリスクが高まります。逆に上半身に汗が噴き出したり、ある食物を食べると大汗をかいたりするのも自律神経障害です。

早期発見
QSARTという汗腺をコントロールする交感神経の機能を評価する検査があります。これによって発汗反応を定量的にチェックできます。

治療
不自然な大汗を抑える薬を医師が処方することがあります。

セルフケア
まず、足や手の皮膚を健康に保つことです。皮膚の湿度を守るローションやクリームがあります。発汗は体温を調節する大切なものですから、もし、その機能が不完全になったら高温多湿の環境を避けなければなりません。足の乾きには気付きにくいものですが、上半身の大汗で異常が発見できます。これは下肢の末梢自律神経の障害で体温調節が不完全になるため、上半身の大汗で代替するようになるためと説明されています。また、健常人でも激辛の食物を食べれば汗が出ますが、糖尿病患者ではスパイシーなもの、チョコレート、チーズ、血のソーセージ、赤ワインなどで汗をかくことがあります。それに気付いたら避けるようにして担当医に連絡しましょう。

これら以外にも、無自覚性低血糖や眼の瞳孔の反応が遅くなる自律神経障害があります。
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