定期接種になった子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)
HPVは性交経験があれば誰もが感染しうるウイルスです
どちらのワクチンも、「ワクチン接種緊急促進事業実施要領」に基づいて、ワクチンとの直接的な因果関係は問わず接種後何らかのトラブルがあった場合はそれを厚生労働省に報告することになっています。
ですので、ワクチン接種による副反応がどのくらいあるのかは、厚生労働省やワクチンの販売元である各製薬メーカーが発表しているデータを見ることによって、一般の方でも把握できるようになっています。
理解しておきたいワクチンの「有害事象」と「副反応」の違い
子宮頸がんワクチンに限らないことですが、ワクチン接種後のトラブルについてのデータを見る場合に気をつけなければいけないのは、そのデータが「有害事象」についてなのか、「副反応」についてなのかということです。「有害事象」とは、ワクチンとの因果関係は問わず、ワクチン接種後に何らかの体調不良があったケースすべてをさします。例えば、ワクチン接種後に風邪を引いて熱が出ても「有害事象」としてカウントされるわけです。極端な話、接種後の帰り道に交通事故にあって死亡したら「死亡」という「有害事象」として記録されます。そのため、「有害事象」の報告データを見ると、「こんなにたくさんトラブルがあるの?」と思われるかもしれません。実際は、有害事象のほとんどはワクチンと直接的関連性はないものがほとんどです。ワクチンの安全性について知りたい場合は、「副反応」についてのデータを見るべきです。
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の副反応
「副反応」は、ワクチンとの何らかの関連性が考えられるまたは否定しきれないケースです。発売開始から2012年3月31日までに製造販売業者および医療機関から報告された副反応の報告は、サーバリックスが597件(頻度0.009%)・869件(頻度0.013%)で、ガーダシルが19件(頻度0.004%)・69件(頻度0.0013%)です。このうち重篤なものは75件(頻度0.001%)と7件(頻度0.0013%)でワクチンと直接関連があるとされた死亡例はありませんでした。副反応の多くは失神・頭痛・めまいなどの神経系障害と注射部位の痛みなどの局所症状です。痛みに関しては、重篤な副反応として複合性局所疼痛症候群(CRPS)の指摘もありましたが、ワクチン接種後にCRPSが疑われた症例のほとんどが典型的な症状を満たしておらず、ワクチン接種との因果関係も証明が困難とされています。CRPSを含めて、針を刺した部位に限局しない慢性的な痛みが続くという現象は、予防接種だけでなくその他の注射や採血などでも起きることがあり、ワクチンそのものの影響とは言えないというのが専門家からの一致した意見です。
「失神」がほかのワクチンと比べて多いという点で注意が促されたことがありましたが、ワクチンの成分による副反応ではなく、筋肉注射という痛みを伴う医療行為によっておきる迷走神経反射によるものと考えられます。なので、採血や点滴で気分が悪くなりやすい方は、ワクチン接種時に失神するリスクがあると考えて、寝た状態で接種するなどの対策が必要になります。
ワクチンの安全性に関しては、2013年6月13日に世界保健機構(WHO)からも声明が発表され、安全性に大きな懸念がないことが再確認されています。この声明の中でも、「日本から報告されている慢性疼痛の症例には特別に言及する必要がある。世界各国で使用が増加しており、日本以外の国からは同様の徴候が認められていないことから、現時点ではHPVワクチンを疑わしいとする理由はほとんどない」と述べられています。また、2013年8月2日に発表された国際産科婦人科連合(FIGO)の声明でも、同様の意見が述べられています。
これらの声明や国内の専門家会議の調査結果を受けて、厚生労働省が出した結論が「心理的・社会的要因が身体の症状に現れた」との見解でした。「心因性障害」とい、何らかの強いストレスが加わった後に、各臓器には何も異常がないのに身体症状が現れることがあります。会社で大きなストレスを抱えていると、出勤日だけ熱が出たり下痢をしたりするといったものです。ワクチン接種後の痛みやしびれがすべて心因性障害とは限りませんが、これらの症状がワクチンの成分そのものによる症状ではないとの考えで一致したものと思われます。
結局のところ接種すべき? 子宮頸がんワクチンの有効性
副反応の頻度は、ほかのワクチンと比べて大きな差はなく、HPVワクチンの安全性はほかのワクチンとほぼ同等と考えて問題ありません。もちろん、リスクが「ゼロ」ではないので、接種するかどうかはリスクよりも接種によって得られるメリットが大きいかどうかを自分なりに考えて決める必要があります。HPVは一度感染すると体からいなくなることはなく、感染から何年もたって細胞に変化を引き起こしてくることがあります。なので感染する前に予防するのが一番効果的です。そういった意味では、絶対に感染していない人、つまり性交渉の経験がない人は、年齢を問わず接種のメリットの方がはるかに大きいといえます。性交経験後であっても、20代のうちはHPVに感染している人が40~50%のため、半数以上の人は接種のメリットの方が大きくなります。また、10代や20代の早い時期に感染してしまうと、妊娠や出産を考える年齢になった頃に細胞に変化が起きてしまい手術が必要になってしまうというリスクもありえますから、若い人ほどワクチンで確実に予防するメリットが大きいのです。
30代以降の有効性は意見の分かれるところですが、パートナーチェンジの可能性がある人は30代でも接種のメリットのほうが大きいといえるでしょう。40歳以上になると有効性が30%以下になってしまうため、リスクをとってワクチンを接種するより、毎年きちんと子宮頚がん検診とHPV検査を受けた方が子宮頚がん予防の効果は高いと考えられます。