サン・パウ病院

世界遺産のサン・パウ病院(バルセロナ)。今は文化センターになっています。
(c) KAWAI Katsuyuki

世界中で一番多く使われている糖尿病経口薬メトホルミンは、腎臓に負担を掛けるヨード造影剤を使用する時はその血管造影の2日前から2日後までの間、休薬することになっています。しかし、メトホルミンは他の血糖降下薬と相性がよいため、多くの国で一錠の中にSU薬やチアゾリジン薬を配合した、いわゆる配合薬が別の商品名で処方されています。

問題は、糖尿病は専門外である血管造影を担当する心臓血管外科などの医療チームが、配合薬の商品名から成分のメトホルミンを見分けることができるだろうか? ということです。イエス!とは言い切れませんね? これはほんの一例ですが、高齢社会の糖尿病患者がさまざまな病気で入院するときのトラブル防止は、患者自身が心得ておくべきことがいろいろあるのです。

日本でも消毒薬を注射されて苦悶の果てに死亡したり、手術する足を間違えられてしまった、身の毛がよだつような医療事故が社会問題になりました。米国でもInstitute of Medicineが1999年に発表した医療事故報告によると、全米で年間およそ4万4000~9万8000人の患者が医療事故で死亡しており、その約半数の事故は予防可能としました。

いろいろな対策が講じられたはずですが、10年後のNEJM誌(November 25,2010)でも一向に減らない医療事故が報告されています。ノースカロライナ州の10ヵ所の病院の医療事故のうち、63%は予防できるものだったのです。

糖尿病に関連する入院患者はどの国でも多く、そのうえ入院期間も長くなりがちです。医療ミスを防いで早く退院するためには、糖尿病がある患者自身が積極的にケアに関わることが求められています。糖尿病ケアは日常的に患者自身が行なっていますから、入院した途端に医療の管理下に置かれてインスリン単位の自由裁量などを取り上げられてしまうと、かえって血糖コントロールが難しくなることがあります。そんな時は次のような心構えで自分自身を守りましょう。


1.気になったことは質問する
難しい医学用語はほとんどの患者にとって"ちんぷんかんぷん"です。遠慮なく質問しましょう。十分な説明を受けるほど、スムーズに治療が進みます。入院時にはたくさんの指示、情報が与えられますから、本人あるいは付き添い人は要点を書き留めておくと後で役立ちます。医師から手術を勧められたら、なぜ手術が必要か? どのように行われるかを理解すること。今日ではインフォームドコンセント(医師からじゅうぶんな説明を受けて、治療法などに同意すること)は当たり前になりましたが、執刀医にその手術を行った回数やその予後を尋ねるのは気が引けるものです。そんな時は家族や友人に立ち合ってもらって代弁してもらいましょう。
入院時には経口薬からインスリンに替わることがあります。その理由と経過を知っておくこと。でも、病院では全員が白衣を着ていますから、くれぐれも質問する相手を間違えないように。

2.正直に!
医師に隠し事をすると痛い目に遭うのはあなたです。内緒にしている薬(たとえばバイアグラ)やアルコールの習慣、セックスライフ、サプリメントなどは正直に伝えましょう。あなたの健康に関する全てを知ることが医師の的確な診断に役立ちます。アレルギーがあれば医師だけでなく、看護に携わる全員に伝えておく必要があります。担当者に一度言えば皆が知っていると思い込むのは事故のもとです。たとえば、ラテックスアレルギーがあるのなら、外科医、看護師、麻酔科医などの全員が手術の前から知っていなければなりません。

3.術前・術後の指示に従う
手術の前に準備することがいろいろあります。たとえば、糖尿病患者の血糖管理を経口薬からインスリンに切り替えて、術中術後の血糖管理を容易にすることもそうです。また、術前の絶食の指示とインスリン投与のバランスも難しい問題です。手術前のベーサルインスリンで手術日の絶食状態はカバーできると思いますが、意見があれば話し合うべきです。経口薬については医師と相談すること。
退院の時はホームケアのガイドラインを医師と話し合うこと。特に通常の痛みと、炎症などの要注意のサインや痛みを確認しておくことです。自分ではどこまで我慢したらいいのか分からないものなのです。

4.処方せんを理解する
手術後は新しい薬が処方されることがあります。薬の名前、使用する目的、一日に服用する量と回数、注意事項などを、薬局の窓口で自分の目で確認することです。他剤との干渉は? 空腹時に飲むのか、食後か? 血糖への影響の有無などをチェックしましょう。

5.自分の病歴を医療プロバイダーにも共有してもらう
病院に行けば病気の既往歴や使用している薬を書類に記入することになります。一度それを提出すれば医療プロバイダーの全員が承知していると思いがちですが、決してそんなことはありません。糖尿病と関係のない関節の手術やがんの治療でも、医師・看護師・療法士などに糖尿病があること、どんな治療をしているかを伝えておくこと。転ばぬ先のつえです。

6.安全に歩き回る
病気を治療するために入院して安静にしているのに、活動的であれ! と言うのは意外かも知れませんが、危険なく歩ける限りは身体を動かすほうが健康を保てるのです。特に糖尿病患者は床ずれが潰瘍になると治り難い炎症になりやすいのです。医師の許可があれば体を動かしましょう。

7.潔癖症になろう?!
電車のつり革が素手で持てない、一日になんども手を洗う、抗菌グッズに囲まれて生活する……。度をこした潔癖症は困りものですが、手術を受けた患者を介護者が手を洗わずに手当てをするのは炎症のもとです。炎症があれば退院できません。医師や看護師に手洗いを確認するのは気まずいものですが、一度思い切って口に出せば注意してくれます。

8.遠慮なくはっきり言う
医療プロバイダーはあなたの病気を治したいのです。文頭で紹介した米国の医療事故報告のタイトルは「人は誰でも間違える」でした。看護師が持ってきた薬が昨日と数が違う? 薬の色も形も違う? と気づいたらはっきりと尋ねましょう。信頼できる病院では、手術室で患者が覚醒していて話が理解できる状態で外科医がチーム全員と手術の確認をします。気になった事は放置しないこと。

9.病院を賢く選ぶ
米国では別の大病院に入院しても、かかりつけ医が治療の中心になってくれる制度がありますが、日本では望めません。新聞や週刊誌、インターネットに各疾病別の病院の情報がありますから、糖尿病マネージメントチームがあって外科手術に対応できる病院を日頃からマークしておきましょう。


糖尿病があっても無くても入院の心得は同じですが、血糖コントロールは医師や看護師にとっても難しいものなのです。手術という強いストレス、ステロイドのような血糖を上げる薬、少ない病院食……がんばりましょう!
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