父親も一人の人間であるという視点
たとえば、「心と体の成長」では、発達心理学や人間の社会性の獲得について詳しく解説されているし、「大人って何?」では、「大人がかかえる問題」として、50代以上の中高年の自殺者が増えていることについてのコラムがあります(163ページ)。「お父さんはしかられなくていいな」と思ったことはありませんか?大人は子供から見ると自分で使えるお金を持ち、自分の好きなことができるうらやましい存在です」「しかし(中略)プレッシャーの中でなやみをかかえている大人もすくなくありません」など、子供から見た絶対的存在である親そのものでさえ、ひとりの「人間」であることを想像させるようになっています。子供にとっては、父親の弱さについて、こうもあからさまに分析・提示されるのは驚きの視点であることでしょう。
「さまざまな心」では、もっと広く、文化人類学的な考察がなされます。人類にはさまざまな肌の色や、文化的背景をもった人々が存在しますが、その違いを受け入れ、どうやって争いや戦争をなくして共存していくことができるかという大きな問いを投げかけています。もっとも秀逸なのは、「集団は個人の考えをにぶらせる」(169ページ)という項目で紹介されている「刑務所の実験」(ジンバルド1971『Psychology and Life』でしょう。