メルセデス・ベンツ/メルセデス・ベンツの車種情報・試乗レポート

Aクラスが大転換、メインテーマはずばり“スポーツ”(2ページ目)

欧州Cセグメントのハッチバック車と真っ向勝負のFFコンパクトカーへと大転進を図ったAクラス。ブランドの出発点として再定義、これからのメルセデスを支える重要な役割を担っているモデルです。

西川 淳

執筆者:西川 淳

車ガイド


日常ツールとしてBクラスより格段に心地いい

M・ベンツAクラス

最高出力122ps/最大トルク200Nmを発生する1.6リッター直噴ターボエンジンを搭載。アイドリングストップ機構も備え、燃費は旧型比で約34%向上(JC08モード 15.9km/l)となる

17インチの標準ホイールを履くA180ブルーエフィシェンシーで走り出した。途端、記憶にあったBクラスとの違いに驚かされたものだ。もちろん、着座位置が低く、これまでのAクラスとはまるで違う景色の流れに目を見張ったということもある。けれども、それ以上に、乗り心地やステアリングフィール、そしてパワートレインのマナーまでもが、基本的なメカニズム構成を一にするはずのBクラスといちいち違っていることに、いい意味で驚いたのだ。

一般道では、Bクラスよりもしなやかな動きをみせる。確かに、硬めではある。けれども、妙に突っ張った感覚やバタツキがなく、その動きには、よくしなる一枚板、といった風情があった。

もちろん、ランフラットタイヤの嫌味は、路面が荒れてくるとすぐに顔を出す。当たりが強く、収まりが悪い。けれども、全体として、嫌な感じにはまるでならない。日本仕様のBクラスは、その煮詰めがちょっと甘い。同じ形式のサスペンションとシャシーでありながらも、Aクラスになって、独自のキャラクターセッティングはもちろんのこと、熟成が進んだということか。ならば、Bクラスの最新デリバリーモデルもそうなっていることだろう!

ただし、ランフラットタイヤの使いこなし具合では、まだまだBMWに一日の長がある。Aクラスでは、連続した凸凹路でバタバタと嫌味な余韻が残るのだ。FRの1シリーズに負けているとすれば、そのあたりの洗練さではないだろうか。
M・ベンツAクラス

デュアルクラッチトランスミッションの7G-DCTを採用。軽量コンパクト(全長367mm、重量86kg)な設計で、車両重量や最小回転半径に貢献する。ステアリングコラムのセレクターレバーとパドルシフトを備える

もうひとつ、Bクラスよりも良かったのがミッションのマナーだ。Aクラスにもメルセデスにとって初の量産用デュアルクラッチシステムである7G-DCTが積まれているが、この変速マナーが歯切れも上々で、気分がいい。BクラスのDCTでは、主要マーケットの特性やファミリィカーというキャラクターを考慮し、さらにはB同士の乗り換え需要も考えて、やや粘着質なシフトチェンジプログラミングになっていたが、Aクラスのそれはまるで違っている。妙に滑るような感じはなく、VW風(極端に歯切れのいいプログラミングだ)とはいかないまでも、小気味がいい。

おそらく、スポーティイメージを前面に打ち出したAクラスゆえ、そして、主要メカニズムをBクラスとほぼ共有するからこそ、ライドフィールのなかでのキャラクター付けを、開発陣はより意識したのだろう。

結果、DCTツインクラッチミッションとブルーダイレクトテクノロジーを採用した第3世代の直噴ターボエンジンとの相性がさらに良くなった。1.6リッターながら非常にはつらつとしたパフォーマンスをみせる。これなら、パドルシフトを使って積極的に運転を楽しんでもいい。

アイドリングストップのマナーも上々。プレミアムブランドの意地だろう。BMWが、音と振動でエンジンスタートを意識させるのに対して、メルセデスのそれは、抑え込みがはっきりと利いている。普段遣いには、やっぱりこちらの方が嬉しい。

エアロダイナミクスの向上も、大きなテーマだった。雨中の高速道路を、なんのためらいもなくハイアベレージで走ってくれる様子は、ベンツなのだからむしろ当然、という気分にもなる。雨が降っているときの高速走行におけるその見事に安定した走りっぷりは、正しくCクラス以上のメルセデスのそれに匹敵する。
M・ベンツAクラス

レーダー型衝突警告システムのCPAを標準採用。これは前走車や障害物に2.6秒以内に衝突するおそれがあるとドライバーに警告、警告後にブレーキ操作が十分でない場合に必要な制動力を自動で補ってくれるもの

ただし、FFゆえのマイナス点もあった。それは、たとえばレーンチェンジをしたあとに感じる、電動パワーステアリングに特有の、尾を引く妙なねばり気だ。同時に、フロントがある程度重いため、粘りの先に重量を感じてしまうこともあった。どんな姿勢であっても路面に張りついて離れないメルセデス、というレべルには、惜しくも達していない。

トータルでみれば、空間性以外の評価項目で、Bクラスよりも日常のツールとしては格段に心地よく、そして狙いどおりに若々しく仕上がっていると思う。一躍、Cセグメントコンパクトカーの代表的モデルにのしあがってみせたと言っていい。
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