山で暮らす人々の生活の知恵が活かされた優れた伝統料理「ダルバート」
ネパールの伝統的な料理に、ダルバート(Dal Bhat)、ダルバット(Dal/Bat)いう名前の料理があります。ダル(Dal)はご飯にかけるスープを意味し、バート(Bat,Bhat)はご飯をさします。その他に、メインのおかずとなるカレーと、付け合わせの漬物がセットになっています。カレーといっても日本やインド風の色の付いた液体のものではなく、お店によってはジャガイモをカレーペーストで煮込んだものであったり、ほうれん草のような野菜を、塩で炒めたものだったりします。お替わりは自由。一つとして同じものがないほど、バリエーションが豊富です。
ヒマラヤのエベレスト街道をトレッキングする場合、一般的にはルクラへ飛行機で入り、エベレストのベースキャンプを目指すのですが、私はこれ以降、バスの運行がほとんどなくなるJiliという町から、ナムチェバザールという町まで11日間のトレッキングにでかけました。撮影がメインのため、ガイド兼通訳、ポーターの3名のキャラバンです。
山岳トレッキングといっても、街道沿いには、普通の民家を改造したような小さな宿が転々とし、少し大きな町にはこじんまりしたホテルもあり、その日のねぐらには困りません。それらほとんどが食堂を兼ねていますので、食べる場所にも困ることはありません。
ネパールには様々な料理があるのですが、この11日間、ガイドとポーターはダルバート以外を注文しませんでした。
ダルバートと名前がついていても、これがダルバートである、といったレシピは存在せず、食堂によって内容はまちまち。一つとして同じものはありませんから、飽きることがありません。
何十キロもの荷を担いで歩くポーター達は、多くのエネルギーを必要としますので、いくら食べても、食べ過ぎることはありません。ダルバートは、伝統的にご飯もダルも、カレーもお替わりし放題なので、荷担ぎのエネルギー源にはもってこいです。
また、これらの街道では肉料理はほとんどなく(たまたまヤギ肉などが加えられている場合があります)、ダルバートも野菜を中心とした食材から作られているのですが、物足りなさを感じることがありません。
人が自分たちで物を運ぶしかない山や渓谷の村々で、食材の手に入りにくい状況で満足感を得ることのできる、ダルバート。人々の生活の知恵が活かされた、優れた伝統料理です。